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島でサボに出会ったルフィは「大丈夫だと思ってた!」と言いながらも、心底嬉しそうに笑っていた。

サボが負傷したとの報せを受けてから1ヶ月。どんな傷を、どうして負ったのかもわからなかった。もちろん安否も不明で、言葉にはしないものの、ルフィがサボを心配していたのは知っている。
そんなときに偶然なのか意図したことなのか、行き着いた島で渦中のサボが待ち構えていたのだ。彼のことだから、麦わら海賊がどこに行くのかを予測して先回りしたのだろう。

一見して、怪我はわからなかった。

サボは相変わらずルフィに過保護なまでに構っていて、微笑ましい。


家族がいたら、あんな風に温かく笑えたのだろうか。


二人を遠巻きに観察しながら、腕を組む。
お兄さん。弟。いや、お父さん? むしろお母さん?
私はサボが、家族の中のどの立ち位置が相応しいのかを決められない。父親がどんなもので、兄弟がどんなものかを知らないからだ。今さらになって、知りたいと思ってしまう自分が情けない。

バシバシとルフィに遠慮なく背中を叩かれているサボと、目が合った。

そうかと思うと、私のほうへ歩み寄ってきて、立ち止まった。

そして私の頭に手を置こうとする。
けれどその行動に驚いて身を縮めてしまった。
本当にどこまでも臆病な性格だ。ルフィのように、どんと構えていられない。誰かが攻撃してくるかもしれないと怯えて、サボが相手でも身構えてしまったのだ。
そんな私を見てサボは可笑しそうに小さく笑い、今度はゆっくりとした仕草で手を頭に置いた。小さく、わしゃわしゃと撫でる。


「心配したか?」
「いや、特には」
「そうか、そうか」
「お兄さんがやられるはずないと思ってましたし、全然、気になんてしてませんでした」
「うん、うん」


わかっているとでも言いたげに頷いているくせに頭を撫でるのを止めないし、ましてや私を抱き締めて背中をぽんぽんと軽く叩いて赤子をあやすような真似をするのだから、本当に言葉を理解しているのか謎である。
けれど振り払うのも皆の手前、やめておいた。


「やめてくださいよ。心配してないって言ってるじゃないですか」
「ああ、わかってるよ。ただちょっと、俺の妹はポーカーフェイスで感情を自覚してないきらいがあるから、もしかしたら無意識に心配してたかもしれないなと思って」
「…妹?」
「そう」
「誰が? 私が? 妹? お兄さんの? つまり、サボの?」
「そう、妹だよ。一緒に酒を飲み交わしただろ」


鼻の奥が、針を刺されたみたいに痛んだ。
顔をしかめて、眉根を寄せて力を込める。そうしていなければ、何だかよくわからないけれど、泣き出してしまいそうになった。

抱いていた腕を放して、私の顔をわざわざ腰を屈めて覗き込んだサボは、目が合うなり吹き出して笑う。
何なんだ、この人。


「やっぱり心配してくれてたんだ」
「してませんって」
「わかった、わかった。よしよーし、いい子いい子」


そして再び抱擁。


「ほら俺の背中に手を回して」
「何で」
「いいから早く」


まったく、とぼやきながらサボの逞しい体を抱き締める。

背中に異物があった。

包帯、いやもっと固い、金属で傷口を留めているような大きなホッチキスの針状のものが背骨に沿って何本も肌に刺さっている。

私は驚いて、手を引っ込めようとしてしまった。けどサボが、させまいと抱く力を強める。


「大丈夫、怖がらないで。心配したぞ、生きてて良かったぞ、って、そう思いながら抱き締めて」
「でも」
「わかった。皆に見られないよう、コートの中で俺に触って」


びくついていた手を掴まれて、促されたのはコートとシャツの間の窮屈な隙間だった。先よりも金属の感触がはっきりとわかって、気持ち悪くなってしまう。
おそるおそる手を回して、そっと力を込めれば、サボも同じように力を込めてくれた。


「もっと抱き締めて」
「え」
「もっと」
「サボ、もういいよ」
「いいから、もっと」


言われた通り、ぎゅっと力を込めた。


「そう、それでいい。相手がどんなに怪我をしていても、恐れずに抱き締めてあげるんだ。それが相手をどんなに大切に思っているかを伝える、一番簡単な方法だから」


サボの腕力がどんどん強まるたびに、私はどんどん弱くなっていく。
とうとう、彼の背中ではなく、シャツを握りしめて何とか腕を持ち上げていた。


「待っててやるから、アラシが泣き止むまで、ずっとこうしてるから」
「…え、泣き…? 誰が?」
「…ああ、そうだな。泣いてない。アラシは泣いてないよ」


不思議とサボのシャツの色が濃くなっていくのを見つめていた。





不出来な妹
(本当に自分のことには疎い子なんだから)

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