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捕まった。

ものの見事に麦藁海賊全員が敵に捕まりました。

私達は底無し沼の中央に、立ったまま拘束されている。
ゆっくりと沈み続ける沼の真ん中で、どうして今も立ったままでいられるかというと、胴体をぐるぐる巻きにしている各々のロープがそれぞれ陸に続いていて、沈む速度を緩やかにしてくれているからだ。

遥か彼方、陸の上には私達を捕まえた敵が立っていて、誇らしげに腰に手を当てている。


「はっはっはっ!! 動くなよ! 動けば動くほど沈むぜぇ? お前達、全員の首を刈ってやるからな! 戻ってくるまで大人しくしてろ!」


そうして踵を返す。
けれど思い立ったように足を止めた。


「助かりたきゃ、このボタンを押すんだな。ま、そこから、ここまでは500mもある。沈まずに辿り着ければの話だがな」


言いながら指差したのは、私達の人数分用意された赤いボタン。
体に巻かれたロープが陸上の、個々の滑車まで続いていて、ボタンはそのすぐ下にある。
どうやら押せば巻き取られて、陸に上がれる仕様みたいだ。

けれど足を動かせば沈むし、体を捻ればやっぱり沈む。

悠々と敵が歩き去った私達は、どうしようか考えていた。


「ルフィ、足、伸ばせねえのか? 首は?」


サンジが問う。
けれど敵もそれは予想済みだったのか、ルフィだけは鼻だけを残してミイラ男のようにワイヤーで簀巻きにされ、何一つ身動きが取れないようだ。
もごもごとワイヤーの渦の中で文句を言っているけれど、どんな言葉かはまるでわからない。

一番沈んでいるのは、重量のあるフランキー。

皆、体を捩ってどうにか拘束を取ろうとするのだけど、沈むばかりだ。
太腿まで浸かると、皆は動くのを辞めた。

私はフランキーに声を掛けた。


「フランキー。パワー全開で縄、引きちぎれる?」
「あ? 出来るだろうけど、陸に着く前に沼の底だぜ」
「大丈夫。最初に引き上げる」
「なんか策があんのか?」
「ある」


私が答えるとフランキーは肩を竦めて、ふうー、と長く息を吐いた。そしてもう一度大きく吸ってから、力んだ。
それこそ猛獣の咆哮のような雄叫びと共に。

ずんずん、ぼこぼことフランキーが沈んでいく。
腰まで浸かったとき、とうとうロープが弾けた。


「私を撃ってくれい」
「力は押さえとくぜ!」


フランキーは掌を私に向けて最小の火力で砲を放った。
ロープに火が燃え移り、縮れながら粉々になっていく。


「よっし、自由になったー」


そして隠し持っていたハンドガンを構える。
本来ならスナイパーライフルのほうがいいのだけど、全て没収されてしまったので仕方がない。

狙いを定めて、撃つ。

外れ。

さすがにハンドガンで500mの距離はきつい。当たり前だ、射程範囲を越えているのだから。
深呼吸して、肩の力を抜いて、もう一度構えた。

撃つ。


「マ、ジか!」


外れたあげく、足を取られているせいで反動をうまく受けられず、仰向けに倒れていく。
ぼちゃん、と背中から底無し沼に着地した。

口の中に泥水が入ってくる。

次がラストチャンスだ。

首だけを起こして、倒れた状態のまま引き金を引いた。


「当たりィ!」
「うおおお!?」


銃弾がボタンを弾くと、きゅるきゅると滑車が動いてフランキーが猛スピードで陸に引き上げられた。

あとはフランキーが皆のボタンを押してくれるだろう。

ふう、と嘆息ついて空を仰いだ。

ああ、今日は天気が悪い。曇り空は気分にも雲をかけるから見上げるには好ましくない。気温は好きなんだけどなあ。銃も撃ちやすいのだけど、色が好きじゃない。

そんなことを呑気に考えている間に、左右にいる仲間達がどんどんと引き上げられていく。

私にも引っ張られる力が掛かった。お腹が僅かに浮く。

の、だけど?


「…上がらねえぞ!?」
「泥のせいだ…重い…沈みすぎてる!」


何やら陸が騒がしい。トラブルがあったみたいだ。

泥に沈み込んでいくと、体が圧迫されて窮屈だ。徐々に圧縮される、血圧を測るあの不愉快な感触。
おまけに冷たいし、臭い。

じわじわと体が沈み、髪を引かれ、目が沈んだ。暗い。泥の中は、暗いなあ。

次に口。

鼻に腐った土砂の臭いが流れ込む。
最後にいっぱいに息を吸って、私は完璧に沈んだ。



「アラシーーーっ!!!」



けどすぐに、どぷん、と粘っこい音と共に急に体が浮上した。
かと思うと、気付いたときには宙を舞っていた。それはもう空高く。


「…ちょっと待て…この展開は…まさか…」


私の足首に巻き付いているルフィの手。
ルフィの腕は眼下までずっとずっと伸びていて、陸にいる皆が豆粒のように小さい。それほどの高さに、私が引き上げられたということだ。

まさか。

悪い予感は的中して、ぐんっとルフィのほうへ引き寄せられる。


「マジかあああああっ!」


地面に放られる!

と、思ったのだけど、予想外に私を包んだのは柔らかなルフィの体だった。

受け止めた勢いそのままに、地面を盛大に滑っている。

なのに私には何にも衝撃がなくて、ただただひたすらルフィに力強く抱かれているだけだった。

勢いがなくなり、自然に止まったのは皆からだいぶ離れた場所だった。

少しの沈黙のあと、私が口を開いた。


「…ルフィ、背中、痛くない?」
「めっちゃくちゃ痛え」
「でしょうな」


ごろんと、二人で並んで大の字に寝転がった。
やっぱり淀んだ灰色は好きじゃない。


「泥臭くない?」
「めっちゃくちゃ臭え」
「やっぱり」
「一緒に風呂入って、俺が洗ってやろうか?」
「いらんわ」
「にしししっ」


よっこいせ、と体を起こして胡座を掻くと、体にまとわりつく泥がひどく重かった。
掌の泥を弾いて、顔を拭うけど意味はほとんどなく、重い上着を苦労して脱いだ。その服を裏返して顔を拭えば、ようやくマシになる。

すると下着姿になった私の背中に触れる感触があった。
首だけで振り返れば、まだ寝そべっているルフィが私の背骨を追うように人差し指を走らせている。

ルフィもまた、私を受け止めたせいで服が泥だらけだ。脱ごうとしていたのか、はだけている。
遊んでばかりで、いつ鍛えてるのかわからないけど、腹筋は割れているのだから不思議だ。


「なーんかアラシの背中見てると、むらむらすんだよなあ。何だろ」
「むらむらって」
「汚れてると余計くる」
「くるって何だよ」


笑ってしまう。
私のイメージでは、ルフィはそういった色恋沙汰には無縁で、仲間と騒いでいるのが好きだと思っていたからだ。
何の冗談だと鼻で笑うと、急に背後から抱き締められた。


「なあ。やっぱり風呂、一緒に入ろうぜ」


耳元で囁かれた吐息混じりのその声は、今までで一番低く、甘かった。





支配したい
(ブラ紐を外すな、ブラ紐を)

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