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「く、来るな…っ!」


ゾロはそう言いながら、苦しそうに踞った。


私達は島に着くや、散り散りになってしまっていた。というのも、この島は快楽殺人犯だけが住んでいる罪人の島ともいうべきぶっ飛んだ場所で、私達という久々の訪問者に狂喜乱舞した住人達に、立て続けに襲われたからだ。

他の皆はどこにいるのかわからない。スラム街のように荒廃した住宅街を走り回って、たまたま逃げ込んだ空き家にゾロがいただけだ。

踞ったゾロに駆け寄る。
背中に触れただけでわかるほど、汗がびっしょりだ。体温も高い。


「大丈夫? 何かやられた? ちょっと傷、探すから」


出血はなし。
どこかの骨が折れているとも思えない。けれどゾロは踞って、かつ苦しそうに頭を抱えている。
呼吸が荒い。


「怪我はないっぽいけど。毒でも盛られた? 私、毒とかの知識は皆無なんだよなあ…。船に戻ろう。診察室に解毒剤か何かあるかも。立てる?」
「うるせえっ! 行けって!」


腕を振り払われ、尻餅をついてしまった。
動けないということか。
いや、毒が回っているなら動かさないほうがいいのかもしれない。


「いててて。行けって言われてもなあ…。とりあえずバリケード作るか」


他の住人に見つかってしまえばゾロは格好の餌食になってしまう。
空き家の入口や窓を、その場にあった家財道具で塞ぐ。触れば崩れそうなほど腐っている家具だけど、この際、仕方がない。

再びゾロの傍らに膝をついた。
背中を擦ってやる。


「吐きそう?」
「行けって…本当に、俺から離れろ、って…!」
「さすがに放置できないっしょ。何の毒、盛られたの? 水が必要なら取ってくるから」


返事はなかった。
仕方ない。水道が通っているかはわからないけれど、蛇口を探しに行こうと立ち上がろうとしたときだった。

腕を掴まれた。

引っ張られる。
力に負けて、がくん、と膝が落ち、目の前にゾロの顔が現れた。

目が血走っていて、熱を持って潤んでいる。
額に血管が浮き出るほど歯を食い縛っていて、汗を大量に掻いていた。

私は袖で汗を拭ってやった。
触れるとゾロの体がびくついた。


「きつい? どうして欲しい?」


寝かせてあげた方がいいのか、動かさない方がいいのか。
背中を擦るか、お腹を擦るか。どうにか望みを聞いてやりたかったのだけど、ゾロは予想外の行動に出た。


天井?


ぐるん、と反転した視界に、押し倒されたのだと気付くまで数秒、要した。

両腕を床に縫い付けられて、ゾロに覆い被さられている状況に理解が付いていけない。
むしろ頭は「この体勢で吐いてくれるなよ」と呑気に祈ってばかりいる。


「…ゾロ?」
「言ったじゃねえか…俺から…離れろ、って…!」
「……あー…なるほど…やっば、今更になって盛られた薬の予想がついてきたわ」
「くっ、そ!」


一際、ゾロが苦痛に顔を歪めた。
そのすぐあと、ゾロは私の首筋に噛み付いた。


「い…っ!? 痛い! 痛いって!」


足をばたつかせるも無意味で、ゾロは食いちぎるほんの少し手前の力で首筋を噛み、舌を這わせ、鎖骨を舐めた。
時々、歯を立てては私の服を破る。

これはあれだ、媚薬とかそういう類いの薬だ。

悪趣味な住人だな、本当に。

かと考えていると頬を舐められ、耳を舐められ、否が応でもなく体が反応し始める。


「ちょ、待った! タイム、タイム! ゾロ、タイム! ゾロ!」
「うるせえ…その声で名前、呼ぶんじゃねえ…余計に煽られる」


マジかよ。という言葉は、ゾロの掌によって塞がれた唇の中に埋もれてしまった。

空いた左腕一本ではゾロの屈強な体を押し返せるはずもなく、執拗に肌を舐め回すゾロに自由を許してしまう。

鎖骨を甘噛みされ、肩を甘噛みされ、どこかしこにも歯形をつけようとするゾロはもう止められそうもない。

貞操の危機というわけだ。


これはもうあれだ、あれしかない。


私は腰から銃を抜いて、ゾロの耳元で引き金を引いた。もちろん銃口は天井に向けて。

至近距離での発射音は大きな耳鳴りにも似ている。
キィィィン――
爆発音と甲高い音が鳴った。


「いって!!」


ゾロが耳を塞ぎながら離れる。

その隙に、私もゾロと距離を取った。


「ご、ごめん…これ以外に思い付かなくて…」


ゾロも正気を取り戻したようだ。
しっしっ、と手を払われる。


「…わかった、わかったから、早く、ここから出て行け…!」
「うん」


そしてバリケードを外して、外に出ようとした。

チョッパーを見つけて呼んでくるか。
外で敵が近付かないよう見張って、薬の効き目がなくなるのを待つか。
船に戻って薬を取ってくるか。
薬の持続性がわからない限り、船から解毒剤を持ってくるのが最善かもしれない。でもその間に症状が悪化するかもしれない。

どうしようか、と考えているとゾロが呻いた。
さらに咳き込んでいる。

喀血でもしそうな大きな咳に、脱出の手を止めて慌てて駆け寄った。


「悪化した?」


そのとき、一瞬、ゾロが妖しく笑った気がした。


「ちょろいな、お前」


あっという間に貪るようなキスをされた。





嗚呼、私の馬鹿野郎
(おい、ちょ、おま、ゾロ、ベルトを緩めるな!)

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