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視線を感じたのは間違いではなかった。
ふと顔を上げると、周囲とは温度の違う眼差しと視線がかち合う。

それはロー先生だった。

周りは耳を聾するほどの騒ぎなのに、どうしてか私達の交わった視線だけは無音で静かに見つめ合っている。

今は宴の真っ最中だ。
久しぶりに飲もう食おう騒ごうとルフィが発案して、近くにいたハートの海賊団を巻き込んでのどんちゃん騒ぎ。誰がどの皿を使っているのか、どのコップでなにを飲んでいるのか、ほとんど収集がつかないくらいに楽しんでいる。笑い声が絶えないこの空間で、笑っていないのは私と先生だけ。

一番離れた席で、長い間、見つめ合っていた。

先生がなにを意図して見てくるのかわからない。だから見返していると、先生がしびれを切らしたようにジョッキを置いた。顎をくいっと上げる。ほんの少しの動作だけれど、なんとなくわかった。


『来い』だ。


私は不思議に思いながら、席を立つ先生のあとを追った。
先生が向かったのは展望台だった。眼下ではけたたましい騒ぎが繰り広げられて、昼間のように明るいのに展望台から見える限りの海は真っ暗だ。きっと海からしてみれば、寝かせてほしいと思っているだろう。沈んだはずの太陽が小さくなって、海を泳いでいるのだから。

先生は椅子に腰掛けて、膝を叩いた。
座れというのだ。
どうやって座ろうか悩んでいると、腰を掴まれて引き寄せられる。結局、私達はいつも通り向かい合わせになって座った。
普段よりも近いのは、先生が私を抱き締める力が強いからだ。

「どうしたんですか、急に」
「キスしたくなった。もう無理だ我慢できねえ」

私の頭に手を回したかと思うと、人の了承も得ずに唇を食べてしまうのだからこの人も大概のキス魔だ。
いつもより激しい。
いつもより、ねっとり絡みつく。
強い酒の匂い。

「先生、酔っ払ってますね」
「なんなんだよ、お前」
「なにが」
「におい。やわらかさ。あたたかさ。全部」
「……どういうこと?」
「ムラムラする」

私を誘うような低くて甘い声。全身を溶かしてしまいそうな、とろけたキス。先生はしきりに私の体を撫で回して柔らかいところを揉みしだいたりする。
私も先生の首や、肩や、胸板や腕に掌を滑らせると、先生に鳥肌が立つのが見えた。

「ちょっと、待った」

急に私の両手を掴んでくる先生は、乱れた服で、淫れた顔で私を見つめてくる。

「これ以上は無理。本当に我慢できなくなる」

彼の理性には脱帽する。どれだけ強靭な理性を脳内に飼っているのだろうか。

「じゃあ戻りますか?」
「なんで」
「え、だってこれ以上は無理って──」
「触られると我慢できなくなる。だから、こうしておく」

そう言って、先生は私の両手首を片手で簡単に握ってしまった。
頭を抑えられてのキスはもう逃げようがない。



卑怯すぎる
(それじゃあ逃げられないじゃないか。キスからも)
(先生からも)

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