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※関連小説「共依存」



 * * *




「つまり、私にいなくなって欲しくないという解釈でいいんですか?」


ひとしきりの抱擁とキスのあとで、アラシが俺の鼻先で問うて来た。
うつらうつらとしていた意識が引き寄せられて、驚いたようにアラシを見ると、アラシも寝惚け眼(まなこ)といった具合のうとうととした顔をしていた。薄っぺらいシーツにくるまっている俺達は、他人から見れば情事に勤しんだ後に見えるだろう。
断じて違う。
俺とアラシは、そんな汚れた欲望に踊らされたりしない。もっと心の奥の深いところで繋がっているのだと弁明したい気分だった。

俺はアラシに愛していると伝えた。

けれど、それからどれほどの時間が経っているのか、わからない。抱き合ったまま寝てしまった気もするし、ついさっきの出来事のような気もする。眠気というのは時間感覚を狂わせる異次元みたいだなと時々思う。

余裕が生まれてしまっていた二人の隙間を埋めるように、アラシを抱き寄せながら俺は答えた。


「そうだ」
「いなくなって欲しくないですか?」
「そう」
「私といると安心します?」
「ああ」
「もっと私と一緒にいたいと思います?」
「うん」


眠い。
アラシが腕の中にいるというだけで、やけに眠くなるこの体はどうなってしまったのだろう。ぐいぐい睡眠の中に落ちていく。しかも、それが堪らなく心地いい。

声が自然と間延びしてしまっている自覚はあるものの、重く閉じていく瞼を開けようとする抗いさえ敵わなかった。

アラシの顔がぼやけていく。
薄い唇。血みたいに赤い唇。そういえば、さっき俺が噛んでしまったんだっけか。柔らかい首筋に浮かぶ独占欲の数々。どうやら俺は無意識に吸い付いていたらしい。
いよいよ目を閉じてしまう──。


「なら、私も先生を愛してるのかもしれません」


また意識がぐっと浮上する。
なに?
夢の中の出来事じゃないだろうなと聞き返すと、アラシは応えなかった。
アラシはもう眠っていた。
すーすーと浅い吐息を繰り返して、悠々と眠っている。
軽く頬を叩いて、起こそうと試みた。


「おい、今なんて言った? 俺を、なんだって?」


聞かせて欲しい。
夢ではなかったと、確信させて欲しい。
一度でいいから、お前の口から、お前の声で、お前の言葉で、愛を贈って欲しかった。
けど、当の本人は呑気に寝ている。

俺は大きく溜め息を吐いて、頭を掻きむしった。


「…俺の馬鹿野郎」


もっとしっかり起きていればよかった。
そうすれば、アラシの心を聞けたのに。

眠気はすっかり覚めてしまった。
それどころか、もしかしたら自分を愛してくれているかもしれないと口走ったアラシに、またキスしたい欲求に駆られそうである。
せっかく寝たのだ、ゆっくりさせてやろう。

シャワーでも浴びてくるかとベッドから立ち上がろうとすると、抵抗を感じた。
見ると、アラシの手が俺の服の裾を握っている。
その小さな手を見た瞬間、胸がぎゅっと締め付けられた音がした。


「お前も、俺といたいのか…?」


問うても、やはり返事はない。





選択肢はなかった
(抱き締めてキスをする。それ以外にどうすればよかったっていうんだ)

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