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愛というものを私はよく理解出来ないでいる。
けれどロー先生やサンジ、ルフィは比較的わかりやすかった。サンジは愛する人を大切に大切にするし、ルフィは笑顔を我慢できないとばかりに笑うし、ロー先生は安心しきったように眠る。愛というのは人それぞれ、違った形で表現されるのだろうと思う。

けど、ゾロに関しては全く不明だった。

理解不能。
私の脳の範疇を越えているのか、はたまたゾロには愛する人がいないのか、どちらかだろうと思うほどに常に一定の機嫌で日々を過ごしている。

こんなふうに得たいの知れない指輪を嵌められていても、だ。


「…外れないね」
「だな」


私は、じっと指輪を眺める。
それは二つの輪がくっついた指輪で、一見すれば数字の8に見える。少し細めの指輪は嵌めてしまうとたちまち輪を縮めて指に食い込み、外れなくなってしまう。
私は右手の親指、ゾロは左手の親指に嵌め込まれてしまい、互いに引っ張られると痛むので手を繋ぐことにした。

これはロビンのせいだといえる。
どうやらこの指輪は相性のいい男女が嵌めると奇跡が起きるという言い伝えがあるらしく、興味を抱いたロビンが無理矢理に嵌めてくれたのだ。相性なんて、と馬鹿にしていたのも束の間、指輪は私達を気に入り、離してくれなくなった。


「こんなこと、前にもあったね。手錠だったっけか」
「ああ、あったな。あんときはルフィとウソップのせいだった」
「離れられない生活、再び、か。どうする? フランキーいわく、外すのに今度は1ヶ月近く掛かるらしいけど。というか、この指輪がかなり財産価値のあるもので壊せないから博物館に協力要請してるらしいじゃんか」
「らしいな」
「困ったねえ」
「まあ、指輪よりもまずはコッチだな」
「それもそうだね」


ちらり、と下を見る。
樹木の、高い位置にある枝に並んで座っている私達の足下よりもさらにずっと下。地面には血に飢えたゾンビ達が木にすがったり、手を伸ばしたりして食事である私達を求めている。
呻き声は風の唸りにも似ていて、寒気がした。


「刀で斬っても死なない、銃も効かない。どうしようか。逃げるにしても数が多すぎるし」
「ルフィ達がどっか行っちまったからなあ」
「あんたが迷って私が巻き添え食ってんだがな」
「火なら有効だとは言ってた」
「あー、そういえばサボ兄さんを呼ぶとか言ってた気がするなあ。けど呼んでも到着するのに三日は掛かるでしょ」
「暇だな」
「暇だね。食料と水は木の実があるし、雨も降りそうだから問題ないとして、暇との戦いになりそうだねえ」
「二人で楽しむか」
「楽しむって何──」


言いかけて、ゾロから妙な色気が発せられているのに気が付く。
さすがの私もそういう事柄について閃くようにはなってきたわけで、当然、ゾロが何を言おうとしているのかわかった。
じとりと目を細めてゾロを睨む。


「誰にでもそんなこと言ってんの?」
「いや?」
「ゾロって今いちわからないんだよなあ。特別な人とそうでない人の違いが全くわからない。皆と仲良くなるから、ある意味でルフィもわかりにくいけど、それでもどことなくわかるのに」


言うと、ゾロは表情をぴくりとも変えずに首を傾げた。


「おかしいな。わかりやすく押してるつもりなのに」
「へえ。誰に?」
「教えて欲しいか?」


そう言うゾロの声にさらにフェロモンが噴霧されていたので、慌てて首を振った。


「いや、結構です」
「あ、そう。つまんねえな」
「で、三日間どうやって過ごそうか」
「じゃあ、話でもするか」
「どんな?」
「お前の過去の話」
「面白くないよ」
「構わない。仲間の誰も知らないお前の話を俺だけが知ってる。それが楽しいんだよ」
「そういうもの?」


こくり、とゾロが頷く。
私は蠢くゾンビ達を見下ろしながら、たっぷりと沈黙を貫き、やがて語りだした。





むかしむかし
(握り締めるあなたの手の力が、もうこのままずっと離れて欲しくないと願うほどに優しすぎて)

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