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「サンジが着物の着付けが出来るなんて思わなかったよ」
「ずーっと前に勉強したんだ。和食を習ったときにね」
「そうなんだ」


今日は元日。
新しい年が始まる第一歩らしい。
そんなめでたい日に、それぞれの家では何を日課にしていたのだとか、この国ではこういう風習があるらしいとか、国際色豊かな会話になった。それからどういった流れでそうなったかは忘れたけれど、ナミが「そういえば着物が一着だけある」と思い出した。
それは珍しいと皆が食い付くなかで、私に着物を着させようという妙案が出て、今に至る。


「着物って昔は下着も着ちゃいけなかったんだ。知ってた?」
「そうなの? 脱ごうか?」
「勘弁してください。せっかく上質な着物なのに俺の鼻血で汚れちゃう」


きっぱりと断られてしまう。
はは。と笑ってしまった。
どうやら今の時代の下着はそれほど生地に厚みがないから着物を着ても響かないらしい。昔の下着はおむつのように厚かったから脱がざるを得なかったという説があるようだ。

薄桃色の肌襦袢を着せてもらったあとで、着物に袖を通す。

鮮やかな群青色の着物だった。水流に毬や小鎚が描かれていて、それらの知識がなければ宇宙をモチーフにしているようにも見える綺麗な着物だ。帯は銀色。


「こんなに綺麗なのに、私が着ていいの?」
「こんなに綺麗だから、アラシちゃんが着るんだよ。ナミさんとロビンちゃんも言ってただろ? アラシちゃんが一番似合うだろうから、着せたいって」
「うん。言ってたね」


とはいえ、理解が出来たわけではない。一着しかない着物だからこそ、スタイルのいいナミやロビンが着ればよかったのにと思ってしまう。

サンジが正面に立って、襟を合わせた。滑らかなようでいて丁寧な手つきだから、この着物は高価なものなんだろうと思う。
胸の膨らみの下できゅっと紐が結ばれた。


「きつくない?」
「平気」
「じゃあ帯を巻いていくね」


この帯が重かった。
こんなに長いのかと思えるほどの長い布に見えたし、一枚の生地が固いから、これを腹に巻かれたら身動きするのに苦労しそうだと思った。
でも、そんな頑強さなどさしたる問題ではないとでも言うように、サンジはしゅるしゅると簡単に帯を作ってしまった。
一歩離れてみて、最後に一通りの確認をして、うん、とサンジが頷く。


「出来た。完成」
「ありがとう。じゃあ皆のところに――」
「あ、待って。せっかくだから、カンザシも挿そう」


そうして桐箱から取り出したのは着物と同じような色合いの花のカンザシだった。
背後にまわったサンジが私の髪をすいて、ひとつに纏めていく。
他にやることもなくて視線を爪先に落としていると、サンジの指が首に触れた。

思わず、ぴくりと肩が跳ねる。


「あ、ごめん。もう少しで終わるから、我慢してくれる?」
「うん」


今度は耳に触れた。
いや、触れるか触れないかの微妙な距離だから逆に気になって仕方がない。何だか肌がちりちりとむず痒い気がして、早く終わってくれないかなと思っていると、カンザシが挿された気配があった。
ほっと息を付く。そんなとき。


「意識した?」


と、小悪魔なサンジか訊いてくる。
耳に掛かる息が熱い。
こういうとき、声を低くするのだからサンジはずるい。否が応でもなく体がびくついてしまって、鳥肌が立った。
かと思うと抱きすくめられて、囁かれた。


「今は皆に着物姿をお披露目しなきゃいけないから何もしない。でも、皆が酒で潰れて、俺達二人だけになってアラシちゃんの着物を脱がすとき、我慢しないから」
「…は?」





覚悟してね
(新年早々、不安でいっぱいです)

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