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※映画フィルムゴールドをご鑑賞なさった方にわかりやすい短編です。予めご了承お願い致します。



 * * *



静かだった昼下がり。
何やら急に騒がしくなったので、読書を中断して甲板に出ると、昔馴染みの人物が立っていた。
あのピンク色のスーツに黄金のアクセサリーを大量に飾っている奴は…。


「ギルド・テゾーロ?」


名を呟くと、本人と皆が私を振り返った。


「よおアラシ、久しぶりだな」


両手を広げて再会を喜ぶギルドに歩み寄って、握手とハグを交わす。
一方で、臨戦体勢の皆は目を白黒とさせていた。


「よく私がここにいるってわかったね」
「俺の情報網を甘く見るんじゃねえよ」
「…てか何で皆、敵意むき出し?」
「前にやり合ったことがあってな」


あ、そうなんだ。それはそれは凄まじい戦いになっただろうに。
世界最大級のカジノを築いたグラン・テゾーロが破壊された話は聞いていたが、もしかしたら、それに麦藁も加担していたのかもしれない。
でも聞かないでおく。聞くと面倒な事になりそうだった。


「で、ギルドは何しに来たの?」
「貸しを返して貰いに来た」
「ああ、いいよ。銃はどれくらい必要?」
「ありったけ」
「わかった。待ってて」


私は踵を返して、武器庫に向かった。



 * * *



俺が武器庫を開けると、アラシが足首にハンドガンを巻き付けていたところだった。ふくらはぎ、太腿、腰、腹のホルスターにもハンドガンやマガジンを次々に挿し込んでいく。あれだけで一体どのくらいの重さになるのか、わからなかった。
常にダンベルを持ち歩いているようなものなのに、アラシはいつも顔色ひとつ変えない。


「ゾロ、何か用?」
「何しに行くつもりだ」
「さあ?」
「さあ、って…お前なあ! テゾーロとどういう知り合いなんだよ!」


つい先日、あいつに殺されかけた身としては、そう易々と仲間を向かわせるほど心にゆとりを持てない。

ショットガンとライフルを背負った細い肩を掴んで振り向かせると、その顔には鼻から下を隠す黒いバンダナが巻かれていた。


「また、人を殺しにいくつもりか」
「わからない。でも、借りは返さないと。ギルドには結構、世話になったから」
「世話って何だよ。いつからだ」
「私が8歳くらいの頃からだから…多分、10年以上前かな。仕事で協力してもらってた。情報交換って奴」


10年。
俺の知らないアラシの長い年月を、あの男がそんな昔から知っているかと思うと無性に腹が立った。

何と言って引き留めたらいいのかわからず、突っ立っているとアラシは、会話は終わったと勘違いしたらしかった。

俺の横をすり抜けて出て行こうとするアラシの手を掴んで、力一杯に引き寄せる。


「なに――」


何も言わせず、バンダナをずり下げて唇を塞いだ。
右手で頬を掴んで、左手で小さな頭をぐっと俺の唇に押し付けてキスをする。
舌で強引に唇を開けさせて、口内を食い散らかすと次第に吐息が荒くなった。

唇を離して、体温を感じるほどの至近距離で、願った。


「ルフィに胸張って報告できるようなことだけ、やってこい」
「…うん、わかった」
「俺はいつでも味方になってやるから」
「わかった」
「絶対、死ぬなよ」
「わかった」


そして最後にもう一度キスをして、唇を吸って、見送った。

甲板に戻ったアラシはテゾーロと共に手摺の上に立って、横付けされた船に乗り移ろうとしていた。
風が強く吹いていて、体格差のある二人を太陽が眩しく照らし出す。


「いつ戻ってくるんだ?」


ルフィが訊ねた。
心配をしている風ではなかった。
どこかに遊びに行く家族が夕食までに帰ってくるのかどうかを聞くような、そんなさりげない声音だった。

ルフィの、こういう厚い信頼をおける強さには本当に驚かされる。
俺もそうならなくてはいけないのに、まだまだ及ばない。

アラシは隣に立つテゾーロを見上げた。


「ギルド、どのくらい掛かる?」
「普通の奴なら、半年ってところだ」


ふうん。
と、アラシが軽く呟いたあと、きらきらと水面が輝く海原を見つめながら、背中越しに宣言した。


「じゃあ、2ヶ月で帰ってくる」


そして長いコートを靡かせて、手摺から飛び降りた。



アラシがいなくなって1ヶ月と少しが経った頃、新聞の一面に大きく事件が載った。


「世界中で大量虐殺事件発生。被害者は全て奴隷商人だけで、事実上の商業解体となる壊滅的な打撃を負う。目撃者によると、黄金に輝く鬼と、影のような死神がたった二人だけで襲ってきたという」


ナミが読み上げている新聞を全員で囲んで覗き込む。
写真が載っていたが、ほとんどが金色に染まっていて何がどう写っているのかまるでわからない。
辛うじて、金色の鬼の肩に乗っている小さな黒点がアラシかもしれないというシルエットが見えただけだ。


「なお、商人達に捕らわれていた奴隷は全員解放。さらに容疑者と思われる二人から大金を渡され、無事に逃亡した。世間では、事件ではなく『神の鉄槌』との呼び声も高い」


そして、さらにきっかり1ヶ月後。
マガジンを使いきったアラシが、疲労困憊の体で帰って来た。


「ルフィ。あの、あのね、たくさん、本当にたくさん、ありがとうって言ってもらえた」


子供が親にそうするみたいに言ったアラシを、俺達は全員で抱き締めて「おかえり」と迎えた。





出直す一歩
(ステラ。見てるか)

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