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「あのさ、ウソップのことなんだけど、体調が悪いと思うんだよね」


そう言ってきたのはアラシだった。

朝食後のトレーニングを終えて、昼までゆっくり昼寝でもしようかと考えていた矢先に、展望室に上がってきたアラシ。

けれど何をするでもなく突っ立っているだけなので、何しに来たんだと問えば「うん」と、答えになっていない返事がある。

よくわからない。
謎の行動に首を捻りながら、俺が汗を拭うために背を向けたときに、ようやく先の発言をしたのだ。

振り返ると、小さな声で「多分」とまで付け加える。


「…で?」


わざと突き放すように言うと、珍しく困ったようにぽりぽりと頬を掻いてみせた。視線はゆらゆらと泳いでいるし、「うん」と、また返事も曖昧だし。

シャツを着始めて、また背を向けると見計らったようにアラシが訊ねてきた。
まるで顔を見られていると喋れない奴みたいだな。


「どうすればいいと思う?」


笑ってしまう。
アラシは洞察力と観察眼も持っている。
だから誰も気付いていないウソップの些細な仕草から具合が悪いのだと判断したのだろうに、どうすべきかを決断する勇気がないらしい。

おそらく、力はあったのだと思う。
この船に乗るまでは人を束ねる立場にいたようだから、人員をどうすべきかは、あの頭の中で計算して効率的な答えを導きだしていたに違いない。

けれどウソップは部下ではなくて仲間だ。
そして自分の行動次第によっては怒らせてしまうのではないかと危惧をして、わざわざ俺のところに来たのだと思うと、その不器用さが面白かった。


「笑うところじゃないんですけど」
「悪い、悪い。別にそんなに悩まなくたって、ウソップ本人に『大丈夫か?』って聞いてみればいいじゃねえか」


言うと、たっぷり時間を掛けて、やっぱり「うん」と情けない返事。

アラシが以前、何をしていたのかを皆に知られてしまってからは、知られる前までにはなかった妙な遠慮みたいなものをしていて、アラシはやりにくそうに日々を過ごしている。
もちろん、皆もまだアラシの過去を消化しきれたわけじゃないだろうが、それでも仲間に受け入れたわけだから、そんなに気を使うこともないだろうに。

何となくまだ迷いのある背中を向けて、展望室から下りていこうとするアラシに声を掛ける。


「一緒に行ってやろうか?」


ぱっと顔があがった。
くっきり二重の目が真ん丸く大きくなって、跳ねるような頷きを二度する。
表情こそ相変わらずのポーカーフェイスだが、喜んでいるのが滲み出ていてやっぱり面白い。


「うん」


さっきよりも、ずっと明るい声音だった。





理解者
(誰よりも先に、一番に頼られるのは、まあ悪い気はしない)

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