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大慌てで出航して、海軍の追手を振り切ったところでようやく私達は脱力した。

疲労感たっぷり。


「み、みんな…本当にすまんかった…」


謝ればそこかしこから「おー」という気の抜けきった返事があった。皆も大急ぎの出航に疲労困憊らしい。
そこでふと頭上に影が出来たので見上げてみるとゾロが仁王立ちしていた。

太陽の逆光のせいで顔は窺い知れないけれど、どうやら怒っている御様子。


「来い」


告げられたかと思うと私の了承など待たずに担ぎ上げられた。
今日はよく担がれる日だなあ。
スモーカーにしかり、ルフィにしかりゾロにしかり。

せめて背負ってくれとも思わなくもないけれど、いかんせんどの場面においても私に非があるので何とも言えず。
皆が脱力している甲板が離れていくのをぼーっと見つめながら、気付いたときには浴場の椅子に座らせられていた。

すると脱衣場にゾロが消えて行って、靴と靴下を脱いでズボンの裾をくるくると捲り上げてからまた私のもとへ戻ってくる。
洗面器に湯を張ったと思えば、私の足を持ち上げてゆっくりとそこに差し入れた。

シャワーで脹ら脛から湯を掛けて、石鹸をたっぷり泡立てた掌で私の足を撫でる。


「ゾロさん」
「何だ」
「もしかしなくとも私の足を洗ってらっしゃる?」
「他にどう見えんだ」
「どうしたん、急に」
「裸足で船の上ぶらついたから汚えんだよ」
「いやそれは自覚してるんだけど何故にゾロが洗ってくれるのかね」
「別に」


そこで会話はいったん止まってしばらく沈黙。
無骨な手指からは信じられないほど優しい手付きをするものだから思わず首を傾げてしまう。普段のゾロなら金属タワシを投げて寄越して「それで洗ってろ!」くらいに言いそうなものなのに。


「いやあ、それにしても心臓止まり掛けたわー。むしろ一瞬止まったね。振り返ったら海軍の大群なんだもん、しかも筆頭にスモーカー」
「何で関わった」
「裸足でいたら『困ってんのか』って声掛けられた」
「何で裸足なんだよ馬鹿か」
「靴が全部壊れちゃってさ。買いに行こうと履いてたサンダルも駄目になって仕方なく脱いで今に至る」
「自業自得じゃねえか」
「ごもっとも。なのに何で優しい? 怒らんの?」


また沈黙。
猛烈にくすぐったいのを猛烈に我慢してシャワーで泡を落としてもらってようやく解放される。

よいせ、と立ち上がると道を塞ぐようにゾロが立ちはだかった。
身長の高いあなたに見下ろされると非常に迫力があるんですが、とは言えず、理由が理由なだけに視線が泳ぐ。

怒られるパターンだ、これは。と思っていると予想外に顎を摘ままれ、ゾロへと顔を向き直された。
左右に顔を動かされ、まじまじと観察される。


「えと、何でしょうか…?」
「怪我は」
「ないでーす」
「どこにも?」
「どこにも」
「ならいい」


そう言ってゾロはぷいと踵を返してしまった。
先に脱衣場に消えて、出て行く気配があった。

一体なんだったんだ。

解せぬ。私はむむむと考えながらも続けて脱衣場に向かった。
タオルで足を拭いて、ふとひとつのサンダルがぽつんと取り残されているのに気が付いた。

黒色のシャワーサンダルで、ゾロの所有物の筈だ。以前「小さくて履けなくなった」とぼやいているのを聞いた気がする。

もしかしなくとも、これは私のために置いてくれたんじゃなかろうかと手に取ると、その下に二つ折りにされた小さな紙切れがあった。

中を見て、ふ、と頬が緩む。


『心配させんな』


とゾロらしい角張った文字。

ゾロには小さくても私にはだいぶ大きなサンダルを突っ掛けて、すぐ外にいた耳まで赤くなっているゾロの背中に思い切り飛び付いてやった。





黙して語らず、記して伝え
(「不器用だねえ」「うるせえな」)

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