皆が高校生シリーズ


 * * *


破面高校I組
日直 グリムジョー


「で?」
「……えーと、ですから、その……」
「言い訳なんざいらねえんだよ。ノートを出すのか、出さねえのか、どっちだ」
「……えー……出せま……せん……」
「あ?」

 そんなグリムジョーの睥睨に動けなくなっている私は、まさに蛇に睨まれた蛙、あるいは豹に睨まれた鼠といったところか。
 よりによって、なぜ今日の日直がグリムジョーなのか。
 しかもなぜ、よりによって今日に限って数学ノート提出があるのか。
 しかもなぜなぜ、よりによって仕事をしっかりこなそうとしてくれてやがるのか。(いつもサボるくせに)

 グリムジョーの全身から放たれる殺気のようなオーラがあまりにも恐ろしくて、私は制服のスカートの裾をぎゅっと掴んで顔を俯かせている。目は終始泳ぎっぱなしで、汚れているグリムジョーの上履きを見たり、床を見たり、自分の上履きを見たりしていた。
 そんな視界に入ってくる水色の髪。
 なんと、わざわざグリムジョーがその場にしゃがんで私の顔を覗き込んでくるではあーるまいか。
 見下されても迫力満点だけれど、見上げられても威力が衰えない目力にまた固まってしまう。目線を逸らして心の中で訴える。見ないでくれい!

「なんで忘れたんだよ」

 その声色は、どこか優しさが混ざっていた。
 だから、ようやく言い訳をする勇気が湧いた。

「あの、その、問題、わからなくて……か、考えてたら、朝になっちゃって、い、いつの間にか寝ちゃってて、ね、寝坊して、あ、慌てて来たら……ノート、持ってなかった、という……」

 はあ、という盛大な溜息。項垂れて頭を掻いているのは呆れているからなのだろう。
 随分と勿体つけて立ち上がったグリムジョーの顔はもう見えなくて、けれど腕を振りあげたのがわかった。
 殴られる!
 そう思って反射的に体を竦めた。
 目を閉じていると、頭にぽすんと何かが置かれる。受け取ると、それはグリムジョーの字で私の名前が書かれた、紛れもなくグリムジョーのノートだった。

「……えっ!」
「俺は別にいい」

 そして背を向けて行ってしまう。

「えっ、あの──」
「その代わり、それ運んでおけよ」


振り返れば、教卓の上に置かれたままの40人分のノート。ちゃんと集めたんですね。




まあ、運びますけどね。
(まあ、ちゃんとグリムジョーの名前に書き換えときましたけどね、さすがに。でも、ありがと)
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