これが恋だと気付いた。








生意気で年下の垂れ目なあいつ。なのに俺はその生意気なあいつが気になって仕方がなかった。
出逢いは膝のリハビリの為に通い始めたシニアのチーム。
ちっせーくせに俺の球をとってやると言う生意気な目で挑発され、思いっきり投げてやったら案の定取れなかった。ほれ、みろ。取れなかったじゃねーかと目で言うと、あいつは目に涙を溜めて悔しそうにこっちを睨んでいた。
次からは違う奴がとんだろーなとか思って、練習に来ればあの生意気なあいつが俺の前で構えていた。

(へぇ、意地でもとってやるってか?おもしれぇ。)

それからと言うものあいつとの投球練習はどっちかが根負けするかの勝負だった。俺も遠慮はしなかったし、あいつも痣を作りながら俺の球を取ろうと構え続けた。

「榛名、最近楽しそうだね。」
幼馴染の秋丸が休み時間に来てそう言った。楽しいかどうか分からないが、あの生意気なあいつとの勝負は面白い。秋丸にあいつの話をすると嬉しそうに聞いていた。

半年が経ち、あいつも俺の球をまとまに取れるようになった。俺の球をミットに収まった時のあいつの表情はいつも嬉しそうで、何だかこっちも嬉しくなったのだが、俺の球を取れるようになったあいつは更に生意気になった。配球がどうのこうの言い出して、ちょっとムカついてワザと暴投することもあった。あいつは「ノーコン野郎」と怒るが、「元希さんの一番いい球お願いしますね。」と俺のテンションを上げる。普段、生意気なあいつが、垂れ目を大きく開いた所や俺の名前を読ぶ所、嬉しそうにしたりする所がいつの間にか気に入っていた。どんなにぶつかっても、あいつは俺を見放すことなく俺の隣にいつも居た。これからも俺たちはそうやって過ごして行くんだと思っていた。

高校に入り、慣れる迄大変だった。同じ部活に入った秋丸は中学とは変わらず、やる気のなさには呆れた。それと、先輩らとの付き合いは少々苦労した。けれど、あることがきっかけで打ち解けて行き、俺が思い描いていた部活に近づいたのを感じた。それから一年経って春がやって来た。シニアの別れ際にあいつに俺の志望校を伝えたっきりあっていなかったので、少しワクワクした。が、入部希望の一年にあいは居なかった。

5月の中頃、ベスト8の試合で何校かの学校が試合を観に訪れていて、その中にあいつは居ると確信して観客席をじっと見つめる。すると、三塁側の内野席にあいつを見つけた。あの頃より背と髪が伸びたみたいだが、相変わらず垂れ目で生意気な顔をしていたのですぐ分かった。
「終わったら待ってろよ。」
そう言ったにも関わらず、あいつはささっと帰ってしまい結局聞きたいことが聞けず仕舞いに終わった。

春も終わり夏、俺たちは甲子園出場を決める決勝の地へとやって来た。これを勝てば甲子園。そう挑んだARCとの試合はコールド負けと言う結果に終わった。応援してくれた親達にお礼をしに周り、チームの元へ戻ろうとした時あいつと再開した。負けた後にあいつに言う皮肉な言葉も思いつかず、お互いしばし無言だった。意を決したあいつが結果に何の不満もないと言いたげな表情で、残念でしたと言う言葉に少しムッとした。はなっから勝てると思っていたいなかったと言われたような。けれど、あいつは思ってもみなかったことを言うので少し驚いた。それとと同時に何でこいつが俺と同じ学校に来なかったのかも分かった気がした。

「エースがチームを引っ張ってくれたら。」

その言葉が頭から離れなかった。
組んでいた奴にそう言われて心が痛んだ。
それから俺はチームのエースとして引っ張って行く為、次なる試練へと練習を積み重ねていった。

翌年、俺たちは甲子園の切符を手にした時、あいつは「おめでとうございます。」と優しく笑ったかと思うと、「来年は俺たちが行きますから。」とニヤッと笑って宣戦布告する。「来年は俺はいねーぞ。」そう言うと「だからですよ。」と返ってきた。「意味わかんねー」と言うと、「スゴイ投手が居ないからですよ。」と真っ直ぐ俺を見据えるあいつにドキリとした。昔とは違って、大人びたあいつの表情はなんだか心を掴まれたようだった。

夏が終わり、そろそろ進路を決める時期がやって来た。俺は躊躇わずプロ志望届を出した。そして10月某球団からドラフト会議で指名を受け、念願のプロ野球選手になった。それからと言うもの毎日が忙しく、気がつけば卒業真近だった。球団のはからいで卒業式は1日オフを貰い、前日の夜は地元へと帰った。卒業式、久しぶりに会うチームメイトや先輩らに暖かく出迎えられ、とても嬉しかった。フと携帯を見ると生意気なあいつから"卒業おめでとうございます。"とメールが入っていた。何だか心が熱くなるのを感じ、無性に会いたくなった。"今から会えるか?"と送ると"少しだけなら"と来たので指定した場所にあいつを呼びつけた。チームメイト達に旧友に会って来ると伝え、一度別れる。
3月の初旬とはいえ冬の肌寒さが少し残っていて、まだ防寒具無しでは外に出られない。指定した場所、俺たちの出逢いの場迄懐かしみながら駅から歩いた。そこに着くと金網の向こう側を眺めるあいつの姿があった。

「よう。」と声をかけると驚くことなく「お久しぶりです。」とこちらに身体を向ける。顔を見たん瞬間、気持ちが高ぶるのを感じて動揺する。そんな気持ちとは裏腹に不思議と言葉は出てくる。「他に言うことねーのかよ。」そう言うと少し考えて「プロ入りおめでとうございます。」と、サラッと言われ心なしか嬉しかった。けれど、何で俺はこいつの言動一つ一つに喜んでしまうのだろうとも思った。「タカヤ…」右頬をそっと撫でる。突然の行動に驚きを隠せないこいつは、垂れた目を大きく開いている。「も、元希さん?!」気が付いたらこいつを抱きしめていた。ああ、懐かしい匂いがする。土や汗に紛れてタカヤ自身の匂い。次第に気持ちが高ぶるのを抑えられなくなるのを感じ、無意識に耳元で「好きだ。」囁いていた。そして、その言葉によって俺は初めてこいつが好きなんだと自覚した。身体を離してあいつの顔を見ると、固まって顔を真っ赤に染めているから可愛くて仕方がなかった。「あんさ、次帰ってくっときは一緒にどっか食いに行こうぜ。」そう言うと赤い顔をフイッとそらして「…元希さんの奢りなら良いですよ。」と厚かましい事を言うが、今の姿を見ると何とも愛おしい。「もう、行かねーと。連絡すっから絶対開けとけよ、奢ってやっから。」「分かりました。」じゃあ…と別れる前に肩を抱き寄せて、額に唇を当てる。また顔を真っ赤にしてるこいつに「約束忘れんなよ!」そう言ってその場から立ち去る。きっと今頃、後ろ姿の俺を頬を赤く染めてキッと睨んでんだろう。そう思うとなんだか笑えてくる。それと同時にあいつを俺のもんにするには時間がかかんだろうな、とも思った。

明日からはキャンプやらオープン戦等と忙しくなるだろう。まだ2軍だけれど、1軍に入れるチャンスと共にあいつも手に入れてやる。そう心に誓ってその未来に向かって強く一歩を踏み出した。

















あとがき

つ、疲れました(笑)
何回も辞書開いたり、オチをどうしようかと考えて書いていたらこうなりました。文中、あいつやらこいつやら言ってますが、それはタカヤだと思ってくださると嬉しいです。
シリアスな戸田北は書けないので、無意識だった気持ち→自覚 する。てな感じで書かせていただきました。榛名も阿部も自覚していないだけで、お互い好きだと良いなー!という私の勝手な想像でこの文はうまれてきました。最後にここ迄お付き合い下さりありがとうございました。



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