4話 青葉病院。 それはこの小さな街で唯一の入院施設だ。他にも病院はあるが、大学の付属である青葉病院ほどの規模はない。だからこそ、澪音はここに運ばれた訳だが。 澪音を背負ってここまできた訳だが、最初は奇異な目で見られたが澪音の表情を見ると一気に対応が変わった。すぐさま――言い方は悪いが――僕から引き剥がし、車椅子に乗せてどっかに行ってしまった。多分、自分の病室に運ばれたのだろう。 しかし、僕の手には未だに澪音の松葉杖が握られたままだった。 「……どうすればいいんだろう、これ」 と言っても届けるしかないわけだが。よって、僕は澪音の病室を目指すことにした。 まずは澪音の病室を知らないとだよなぁ。適当に歩いて探そうかと思ったけど、それでは何分かかるか分かったものではない。 その辺にいる看護士さんに聞くしかないか。 そんなこんなでたどり着いた澪音の病室。他の誰かと相部屋ではなく、個人用の病室だった。 そして、今僕は病室の外にある備え付けの椅子に座っていた。何故かって言うと、先程部屋には入ったのだが、これから着替えるので出ていってのこと。……未だに松葉杖を持っているけど。 そこに、向こうから看護士さんが近づいてくる。 「お、少年」 澪音の病室に用があるのだろうか。と思ったら、僕の目の前で止まった。 その看護士さんは女性で、僕より背が高いと思う。目が少し吊り上がっていて、見た目は男勝りな感じがする。 「今日はお手柄だったじゃないか」 「……はぁ」 「ん?お前さんだろ。今日澪音を連れてきてくれたの」 「そうですけど……」 なんか歯切れ悪いなぁと呟きながら、看護士さんは僕の隣に座る。 「少年は澪音の友達なのか?」 そう言われ、考えてしまう。僕と澪音はまだ出会って三日と経っていない。まだ、互いになにも知らない。それなのに友達と呼んでもいいのだろうか。 「……どうなんでしょうか」 「……ふーん。まぁいいや。んで澪音に用があんだろ」 「え、えぇまぁ」 僕が曖昧な返事を返すと、看護士さんはいきなり立ち上がる。 「んじゃーちょっと待ってろ。……澪音ー客だぞー!」 「あ、ちょっと澪音はいま――」 着替え中です、と言う前に飛び込んでしまう。ノックもせずにいきなり扉を開ける。幸いにも、僕からは中の様子は見えない。 「澪音ー少年が待ってるぞー」 「え、えぇ!?ちょ、ちょっと今着替えてるんですけど!」 「知ってる知ってる。てか今見てるし」 「じゃ、じゃあ出てってくださいよ!」 「少年、入ってきていいぞー」 「わたしの話聞きました!?って、悠!入って来ちゃダメだから!」 「わ、わかってるよ」 入ろうとしてないから大丈夫。あんななかに突っ込みたくない。 その後、入室許可が出たのはそれから五分後だった。 「もー咲希さんってホント話聞かないんだから」 「ははは。あーゆー人なの?さっきの看護士さん」 「うん。いつもあんな感じ」 澪音はベットに上半身だけ、起こして座っている。対して僕は、傍にあった丸椅子に座っている。 既に松葉杖は渡しておいた。 「体は大丈夫?」 「うん。結構楽になったよ」 そう言う澪音の表情は確かに、あの桜の場所に比べかなり良くなっていた。少し顔が赤いけど。 「そっか。それはよかった」 「悠のおかげだよ」 「そんなことないよ」 「ううん。悠のおかげだよ。……ありがとね」 澪音はまた笑う。それは笑うと言うより微笑むと言ったほうが正しい気がする。 僕はそれをみて少しの間見惚れてしまった。だから返す言葉も少し戸惑ってしまった。 「ん?どうしたの、悠?」 「な、なんでもないよ。……それより何で熱があったのにあの場所に来たの?」 ずっと考えていたことを口に出す。 あの場所は澪音にとってやっぱり思い入れがある場所なんだろうか。だとしたら、僕は澪音に会っているのではないか。しかし、僕の記憶にはそんな記憶はない。 「それは……その……悠がいると思ったから」 「……ん?なんか言った?」 考え事に耽っていたため、澪音が何を言ったのか聞こえなかった。 「な、なんでもない。ただ、なんとなく行きたかったから」 「……そっか」 他に何か言った気がするけど、澪音が言いたくないならそれに納得するしかない。言いたくないことを無理やり聞き出しても意味がない。 「あのさ」 「ん?」 いつもと違って、おずおずとした口調で話しかけてくる。 「明日も来てくれる……?」 「うん。いいよ」 「ほ、ほんと?!」 「うん」 そう言うと、澪音は頬をゆるめる。 先程まで何でいつも笑っているんだろう、と疑問に思っていたけれど、やっぱり澪音には笑顔が似合ってる。笑っている姿がとても澪音にはあっている。 「んじゃあ、また明日ね」 適当な所で話をあげて、席を立つ。 「うん、じゃあね」 澪音も少し名残惜しそうにしてたが、僕に合わしてくれた。 それにしても、妙に今日はおとなしかった気がする。昨日はもっと騒がしいと言うか、明るかった気がするのに。まぁ熱のせいだろう。そう決めつけ僕は部屋を出ていった。 |