9.5話



悠と桜の下で会う約束をしたその日、澪音は慣れた手つきで松葉杖をつきながら病院から出てきた。久しぶりに外出許可がでた為、こうして外にでてこれた。

澪音は前と同じ道を歩いていく。記憶を失う前からここを歩いていたことがあるのだろうか?と考えながら。しかし、その答は出ることはない。

「……けど、それを取り戻そうとしてるんだよね」



桜がある神社までの道を一人寂しく街中を歩く。この間、この道を歩いて桜の場所に向かったときは楽しかった思い出がある。

「どうすれば、記憶が戻るんだろ」

悠の手前で記憶を取り戻すと言ったが、未だにその方法が分からない。きっかけが必要なのだろうか?でも、そのきっかけは何だろう?

そう考えている内に澪音はいつものように桜がある神社がある商店街にたどり着いた。



しかし、考え事をしてるのがこの時悪かった。

キキーッ!と車のブレーキ音が辺りを包み込む。


「――危ねぇだろうが!!さっさとどけ!」

気付いたら、目の前にトラックが止まっていた。そこから息も切れ切れになりながら、道路から離れる。


――あれ?

――こんなこと前にもなかったか?



「……あ」


知らない記憶が、知らない自分が自分の中にある。それはとても気持ち悪くて苦しくて。何もかも投げ出したかった。

「……なにこれ……たすけてよ……。誰か――」














「――悠。たすけてよ」












思い出したかったことが戻って来た。しかし、それは気味が悪くてとても気持ち悪かった。

こんなことなら思い出したくなかった。こんな自分知りたくなかった。こんな自分は誰にも教えたくなかった。

それなのにたすけてもらおうなんて……。なんて傲慢でなんて意地汚いんだろう。

だから逃げ出した。一番大切な友人から。一番安心していた居場所から。

もう何もかもがぐちゃぐちゃで、壊れてしまった。




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