「…どうかしましたか?トグサさん。」



甘やかされているな、と感じることがままある。
年齢のせいなのか、或いは素子さん本人が言うところの「似ている」せいなのか。
それを顕著に感じるのが彼からの視線であったりする。



「…いや、どうもスズぐらいの年齢の子を見ると、娘が大きくなったらどうなるのかなあって考えちゃってね。」



この人の場合は前者の比率が高いらしい。
9課唯一の所帯持ち。絵に描いたような幸せな家庭だ。
その温かさを彼から感じると、羨望やなんかを感じることもあるけれど。
幸せをほんの少しわけてもらえるような気がして嫌いじゃなかった。



「スズって、今少佐のとこで面倒見てもらってるんだろう?やっぱり少佐に家族的なものを感じることってあるのか?」
「…なんでまた?」
「いやあ、俺って少佐にそういう情念というか、うーん、少佐自体が家族と縁遠いっていうイメージがあるっていうか。」



私もそれほど長い時間を彼女と過ごしたわけではない。
とはいえ、拾われてこの二ヶ月間。たった二ヶ月間だけれども。妙に距離は近い気がする。
その関係に名前をつけるなら?姉?母?或いは恋人?或いはもうひとりの自分?或いは…



「…そうですね。敢えて言うなら抱きまくらに近いのかもしれません。」
「……スズが?少佐の?」
「抱きまくら」
「…言い得て妙ね」



背後で扉の開く気配がして、凛とした声が鼓膜を震わせた。
ぎくりとする。9課にいると、ぎくりとする率が高い。彼女が現れるのは決まっていいタイミングだった。



「スズ、余計なこと言わない。ぽろっとイケないことまで言っちゃいそうなんだから。貴女の口の防壁はぺらっぺらね。」
「…ヒキコモリ一歩手前の私に『コミュニケーション論』でお説教したのは素子さんだよ。」
「少佐が、スズを、抱いて寝るわけ?そ、それって言葉通りの意味なわけ?」



あからさまに狼狽しながらトグサさんが話を掘り下げようとする。
結構娘さんと重ねたりしたのかな。ほんの少し可愛らしいだなんて思ってしまった。



「そーよ。…何よ?別にいいじゃない?ちょっとした姉妹の戯れみたいなものじゃない?」
「し、しま…いや、ツッコむべきところはそこじゃないかな?
 少佐うっかりその先のステップに行っちゃいそうだから、いやえっと」
「………」
「…ちょっと、ちょっと待ってよ…」



余計なこと言わない、って咎められたから黙ったのに。素子さんの視線がほんの少しだけ私を責めている。
沈黙は是になりうるということは、ヒキコモリ一歩手前の私でもわかるけれど。
こればっかりは相手の判断によるのでは?
そんなことを考えている間も、トグサさんの悩ましい逡巡は続く。



「トグサさん、もし娘さんがどこぞのおねいさんに『ダキマクラ』にされてたら、父親としてはどうなんでしょう。」
「スズ、悪戯に煽るのはやめなさい…もう。もうちょっと上手いやり方があるでしょうに。」
「うわー………聞くんじゃなかった…あと三日は引きずりそうだよ…」



話題の転換に務めたつもりだったんだけれど、どうやらそれもどこか外していたらしい。
首根っこを掴まれ、私は強制的に帰路に付くことになる。今日の『お説教』は長そうだった。




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