授業が終わり、三年である俺らはもう部活を引退している為にみんなが学校から去っていく。
「なに、笠松急いでる感じ?」
「あ、あぁ…なんかあった?」
森山に下駄箱で靴を履いていると呼び止められた。そんなに急いでるように見えるだろうか。
「んー…まぁ明日でもいいや、勉強教えて?」
「あぁ、うん、いいよ、…じゃあ俺もう行くから!」
じゃあなーと緩い森山の声がして振り返らずに手だけ振り返す。
黄瀬の家に行く前にドラッグストアに寄ろうと思う。アイツは一人暮らしだから何かと薬などを買っていく、比較的海常高校の近くに黄瀬の家はあるので今からいけば17時半にはつきそうだ。
"17時半にはつきそう"
17時21分のメールだった。
送ってからもしかしたら携帯を見てないかもと思いつつ、 近場のドラッグストアに寄って、黄瀬の家に向かう。
マンションのエントランスで前にくれた合鍵でオートロックのドアを開け、足早にエレベーターに乗る。
黄瀬の部屋は夜になると夜景が綺麗に見える7階だ。
もしかしたら寝ているかもしれないから、起こさないようにそーっとドアを開く。
案の定、黄瀬はベットの上でワイシャツのまま寝ていた。
その顔はいつもより赤く、寝息も苦しそうだった。
「…黄瀬、」
静かに近寄り、ベットに腰をかける。
「…ん…センパ、イ…?」
一瞬眉間に皺を寄せゆっくりと目が開く。潤んだ琥珀色の目がこっちを見つめている。
「悪ぃ、起こしちまった?」
「ううん…いいん、ス…センパイ、本当に来てくれたんスね…」
普段とは違い、ふにゃりと笑う黄瀬が可愛いと思った。
それでもどこか辛そうで。
「大丈夫か?何か食いたいもんとかねぇの?」
「…今はいらないっス、お腹空いてない…」
ぎゅうっと俺の手を握ってきた手が弱々しかった。
「…センパイ、冷たい…」
「そりゃ外は寒ぃからよ、しょーがねぇだろ、それにお前が熱いんだろ」
「そんなこと、ないっス…」
なくない、と手を払い、買ってきた袋の中から熱冷ましシートを取り出す。
「おら、貼るから」
「ぅー…」
渋る黄瀬の意見も聞かずに長い前髪をどかし、額に貼ると、ひゃぁっ、と黄瀬が声を上げた。
「気色悪い声出すなよ、」
「だって、冷たかったから…」
恥ずかしくなったのか鼻から下を布団で覆ってしまった。
「…変なとこで照れんなよ、…お前もう少し寝ろ」
「えー…折角センパイがいるのに…」
「だから、ここにいてやるから。」
手を握ってやると黄瀬は安心したように微笑み、目をまた閉じた。
やはり体力を奪われているせいか、すぐに寝息をたててしまった。
「おやすみ、黄瀬。」
そっと黄瀬の頬にキスをしたのは、俺だけの秘密だ。