「…あれ、俺の…?」
「っ!!、あ、ぅ……う、ぇ……」

見られた、黄瀬に。

「…ぅ、ふぇ…」
「ねぇ、センパイ?」

嫌だ、怖いよ、黄瀬。
すると黄瀬の手が俺に掲げられる。
体がビクッと反応する。
殴られると思ったから。

「、?…黄、瀬…?」
「大丈夫っスよ、センパイ、悪くない。」

その手は俺の頭を撫でていた。

「…っ、黄瀬ぇ…」

また涙が溢れる。
すると黄瀬がそっと抱き締めてくれる。
ごめん、今だけ甘えさせて。そういう事を言うことも出来ずに、ただ俺は黄瀬に泣きついた。

「黄瀬、笠松を保健室にでも連れてけ。」
「はいっス!」

教師と監督の話がついたようで、監督が黄瀬に指示をする。

「センパイ、たてますか?」

そう言われて、立ち上がろうとするが、上手く力が入らない。

「…無、理…かも…」
「じゃあ仕方ないっスね、」

軽々と持ち上げられた。言うところの"お姫様抱っこ"だ。

「ちょっ!えっ!!?」
「大人しくしてて下さい、すぐですから。」

抵抗は少ししたが、すぐに黄瀬に止められてしまうので諦めた。
黄瀬の肩に寄りかかるようにして顔を隠す。
こんな顔、本当は黄瀬に見られたくない。



「あれ…誰もいない。」

保健室には生徒も養護教諭の姿もなかった。

「ま、いっか。センパイ、はい。」

そのまま中に入り、俺をベットに降ろす。

「大丈夫っスか…?まだ吐き気とか…」
「ん…大丈夫…。」
「よかった。」

黄瀬が微笑むと、少し安心する。

「ちょっと待ってて…」

すると黄瀬は保健室から出ていく。
遠くからガコンと鈍い音がして、すぐに黄瀬は戻ってきた。

「はい、ココア。飲んだら暖まるっスから…」

確かに指導室は寒かったかもしれない。それがわからないほどに俺は混乱していたのだと、今冷静になってからわかる。

「あり、がと…」

缶を受け取っても、手が震えて開けられずに苦戦していると黄瀬が静かにその缶を取り上げ、開ける。
それだけでなく、ココアを口に含むと、俺の唇に口を合わせてきて、口の中に甘くて暖かいココアが流れてくる。

「…んっ…、手、震えてるから飲みにくいかなって思って…」
「…ありがと…」

そのお陰もあってか、少しすると手の震えは治まった。
暫くの沈黙の後、先にその沈黙を破ったのは黄瀬だった。

「センパイ、何があったのか聞いてもいいですか…?」

急に胃が痛くなった気がした。
今すぐ逃げ出したい、思い出したくないと思うが、明らかに黄瀬だって巻き込まれてるのは確かだ。
一番の被害者といっても過言ではないかもしれない。

「…あの、無理なら…」
「バスケ部辞めた一年に、襲われた…。」
「えっ…!?」

黄瀬のつらそうな声に、咄嗟に俯く。

「キセキの世代が、気に入らないからお前に何かするつもりだったらしい…、俺はお前を呼び出すためだったみたいだけど…」

気づいたら、殴っていた。
スポーツマンとしてあるまじき行為だ。
きっと黄瀬も呆れるだろう、
そう思ったら辛い。

「…あいつらがお前のバッシュを持ってきて踏みつけた後のことは、覚えてない。
…気づいたら、後輩たちは倒れてた。」

お前を守りたかったはずが、逆にお前を苦しめてしまった。

「俺が殴った。血が出るくらい。」
「…でもそいつらはセンパイに酷いことしたんでしょ!?」

黄瀬が急に声を荒くする。

「先生には言わなかったんスか…!?」
「言えるわけねぇじゃん…」

レイプされかけました、なんて。
視界が歪み、涙がまたでてきてることがわかった。

「…っ、ごめん、黄瀬。」
「…なんでセンパイが謝るんスか?」

黄瀬の大きな手が、俺の頬を包む。
顔を上げさせれ、困ったように笑う黄瀬と目が合う。

「センパイは悪くない。センパイの事、守れなかった俺も悪かったっス…」
「ちが…それに、バッシュだって…」
「バッシュぐらいまた買えばいいでしょ?まずはセンパイが無事なら、それでいいんスよ…」

また、目頭から涙が溢れる。
どうしてそんな優しいんだよ。
俺が悪いのに、なんで許してくれるんだよ。
お前が優しいから、だから、甘えたくなるじゃんよ。

「俺、センパイのこと守りたい。いや、守りますから!」

だから、一人で抱え込まないで?

その言葉が、俺の心に響いた。

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