邂 逅




自分に与えられた部屋よりもずっと大きな部屋。その奥中央に、見事な造りの執務机が置いてある。その机に積まれた書類を睨みながら用件を伝える赤い騎士に、私は少しだけ首を傾げた。


「付き人…ですか?」

「あぁ、その方が何かと便利だろう」


騎士団長にいきなり呼び出されたかと思えば、私に付き人をつけるという話だった。あまりに唐突な内容に少しばかり戸惑ってしまう。


「しかし何故―」

「特に理由など無い。ただ作業の効率化を図っただけだ」


道具をより円滑に使う為―自分にはそう聞こえた。彼もそのつもりで付き人なんてものを用意したのだろう。


「…わかりました」

「もうすぐお前の部屋に顔を出すはずだ、行ってやれ」


こちらに一度も目をくれず彼はそう言い放つ。


「失礼します」


どうせ見ていないだろうが入口で軽く頭を下げて、団長室を後にする。


「(付き人…。さて、どうしたものか…)」









今後の事を考えながら城の長い廊下を歩き、角を曲がった所で一人の見習い騎士が目に入った。背格好からして女だろうか?


「私に何か用か?」

『あ…!』


私の部屋の前で突っ立っているその騎士に声をかけると、相手はこちらを振り向いて目を見開いた。

大きな瞳に長い睫、まだ大人に成りきれていない幼い顔をした少女だ。


『シュヴァーン様でしょうか!?』

「そうだが…君は?」


私よりも背の低い彼女はその綺麗な瞳でぐっとこちらを見上げてくる。


『えっと…本日よりシュヴァーン様の付き人に任命されました!ななし・ななしと申します!』

「………何?」


一瞬、彼女の言葉が理解できず三拍程間を空けてしまった。こんな少女が自分の付き人だと?


『うぅ…怖いよぅ…』

「……」


余程険しい顔をしていたのか彼女は怯えながら小さい声でそう呟いた。…丸聞こえなのだが。


「…とにかく入れ」

『は、はい!失礼します!』


ドアを開けて部屋に入ると、彼女も私の後に続いて部屋に足を踏み入れる。


『あ、あれ?』


彼女の声に後ろを振り返ると、彼女の抱える大きな荷物が入口につっかえていた。


「何だ、その荷物は」

『えーっと、着替えとか本とかお菓子とか…です…』

「…廊下に置いておけ」


必要の無いものも含まれていた気がするが、それを聞き流してそう言うと彼女は困ったような顔をした。


「何か問題でも?」

『せめて着替えは部屋に置いておきたいんですが…』

「自分の部屋があるだろう」


普通見習い騎士に個人部屋が与えられる事など滅多にないが、隊長の付き人となるならば話は別だ。


『騎士団長にはシュヴァーン様の部屋に住め、と言われたのですが…』

「…………」

『あぅぅ…また怒ってるよ…!』


だから丸聞こえだ、と突っ込む気力もなかった。何を考えているんだ、あの人は…!


「まぁ、いい…。それはとりあえず廊下に置いておけ」

『はい…』


そう言うと彼女は何故か名残惜しそうに廊下に荷物を置いて入ってきた。


『チョコレート、溶けないかな…』


……独り言はもう少しボリュームを抑えるよう後で注意しておこう。




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