ホントのキモチ



バウルで移動中の船の上、今日も今日とて聞き慣れた声が甲板に響く。


「ジュディスちゅわ〜ん!おっさんと温泉行こー!」

「ふふ、遠慮しておくわ」


いい歳して猫撫で声を出すおっさんと、それを軽くあしらう美女。いつもの事なので誰も見向きもしない。

しかし船室の扉の横で座り込み本を読んでいたななしは、読書を中断してその光景を眺めていた。



するとすぐ横の扉が開き、中からユーリが現れる。

「おっさんも懲りねぇな…」

呆れた表情でため息をつくユーリ。


『レイヴンさんは…ジュディスさんの事が好きなんでしょうか…』

「んー…おっさんの場合は女が好きなだけじゃないか?リタはともかく…エステルにもあんな感じだろ?」


するとななしは少し俯いて


『私…言われた事ないです』


ななしの台詞を聞いてキョトンとするユーリ。


「は?」

『やっぱり…胸なのかなぁ…』

胸ってお前…と思うユーリだったが、それよりも気になる事があった。

「ななしはジュディみたいにおっさんに追いかけられたいのか?」


ユーリが苦笑いしながら尋ねると、ななしは頬を赤らめながら頷いた。


『何で言ってくれないんでしょう…やっぱり胸が…』


胸はもういいって。

しかしユーリには思い当たる節があった。




恐らくレイヴンもななしが好きなのだろう。それは日々のレイヴンの行動でなんとなく気付いていた。

戦闘中は必ずと言っていいほどななしを気にしているし、何よりななしと話している時の表情が違う。



目が好きだと言っている。



「おっさんの場合…別に理由があるんだろうさ」

『え?』

「何なら試してみるか?」


悪戯を思い付いた子供のような表情で言いながら、ユーリはレイヴンの方に向かって行く。


『え…ユ、ユーリさん!?』


ななしも慌てて立ち上がると、本を抱えたままユーリの後を追った。








「よぅ、おっさん。今日も撃沈か?」

「そーなのよ…トホホ…」


レイヴンは肩を落として残念そうな顔をしていた。


「んじゃあ、落ち込んでるとこ悪ぃけど留守番頼むわ」

「およ?お出かけ?」

「あぁ…」


そう言いながらユーリは、追いかけて来たななしに目をやる。今来たばかりのななしは話の展開が読めない。

ユーリはななしの肩に腕を回し


「これから俺はコイツとデートなんでな」


挑発するような口調でそう言いながら、レイヴンに笑みを向ける。

イキナリの展開にななしは顔を真っ赤にしながら硬直した。



そしてレイヴンはというと、明らかに動揺していた。


「そ、そう…」


平静を装って(全然装えてないが)顔を背ける。


「若人はいいわね、おっさんも青春したいわ」


そう目を合わさずに言い放つ。しかしユーリは見逃さなかった。

レイヴンが一瞬酷く傷付いた表情をした事に。



そしてレイヴンはそのままユーリ達から離れて行こうとする。ユーリはやれやれといった顔をしながら


「いいのか、おっさん」

『ユーリさん…?』


やっと頭が回転し始めたななしだが、ユーリの言わんとする事がわからなかった。




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