宿屋で出かける準備をしていると、廊下から二人分の足音が聞こえる。

そして、自分の部屋の前で止まったかと思うと、勢いよく扉が開いた。


「「ななし(ちゃん)!」」

『はい?』

「「付き合うならどちらがいい!?」」

『は…い?』



白の騎士と黒の騎士



『い、いきなりどうしたんですか?』


「だってこの人がさぁ〜、ななしなら私を選ぶに決まっている!とか言うもんだから」

「当然だ。誰が好き好んでお前のような奴と付き合うというんだ」

「えー、でもななしちゃん、こんな根暗と付き合うのは嫌よね〜?」

「ね、根暗…」


『あ、えと…私はお二人とも素敵だと思いますよ?』



いつも飄々としていて胡散臭いという言葉を具現化したような男、レイヴン。

真面目そうに見えるが口数が少なくどこか影のある男、シュヴァーン。

この二人は双子だ。


仲が悪いというわけではないのだが…。


ひょんなことからななしがどちらを選ぶかという言い合いになり、本人に確かめに来たというわけだ。



「じゃあ今度おっさんと一緒にユウマンジュ行こっ!」

「待て、こんな下心の塊のような男と温泉など…」

「ムッツリスケベな人に言われたくないわねー」

『ま、まぁまぁ。三人で仲良く行きましょう?ね?』


ななしにそう言われて、二人は渋々了承した。




そこでななしは当初の予定を思い出し、二人に声をかける。


『では、私は買い出しに行ってきますね』

「ん?ななしちゃん一人で行くのかい?」

『はい』

「女性の一人歩きは危険だ。私も一緒に行こう」

「じゃあおっさんも行く行く〜!」

「……」

『ありがとうございます!じゃあ行きましょうか〜』


そう言って、ななしは宿屋の入り口を目指す。その後ろには、ニヤニヤしているレイヴンとものすごく不満そうな顔のシュヴァーンが睨み合っていた。







街の中心部までやってきた三人。レイヴンが買い出しの内容を確認した。


「んで?何買えばいいの?」

『えーと、アップルグミ、オレンジグミと…とりあえず雑貨屋さんで買える物ばかりですね』

「それだけか?」

『頼まれているものはそれだけです……あ』

「どうした?」

『シュヴァーンさんの手袋、買いに行きましょうか!』

「手袋ぉ?なんでまた」

『だって、この間の戦闘で破けちゃったじゃないですか。随分長く使ってるみたいですし、そろそろ新しいのに変えてみませんか?』

「…よく覚えてるな」

『そうですか?』


レイヴンはシュヴァーンの嬉しそうな表情を見て、面白くなさそうに唇を尖らせた。


『レイヴンさんのブーツも買いましょうね』

「あらら、ほんとだ。もうボロボロだわ」

「ななしはよく周りをみているんだな」


シュヴァーンは微かに笑みを浮かべながらななしの頭をくしゃくしゃと撫でた。ななしはくすぐったそうにしている。

それを見てムッとしたレイヴンはななしの後ろから抱き着いて、ななしの頭に顎を乗せた。


『わわっ…///』

「おい…」

「ん〜、ななしちゃんいい香りvv」

「ななしが困っているだろう」

「なになに羨ましいの?」

「…っ!」

『お二人ともストップー!』


言い合いになりそうな雰囲気に、ななしが慌てて仲裁に入る。二人の男が少女を挟んで睨み合っている光景は、周りから見ると異様だった。





その後なんだかんだで雑貨屋に到着した三人だったが、ななしはすぐに済むからと一人で店内に入っていってしまった。

置いていかれた双子は、雑貨屋の入り口前で大人しく待つ。


「お前…本気なのか?」

「何がよ」

「ななしのことだ」

「…本気、って言ったら?」

「私は譲る気はない」

「俺様だってそうよ、例え相手がアンタでもね」




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