「レ、レイヴン!今日はレイヴンの好きなサバミソだよ!?」

「そうです!しかもレイヴンのは特別大きなサバですよ!」


「……いらない」



「あ…そ、そうだ!ボク肩でも揉んであげようか!」

「ソレいいです!マッサージなら私も得意です!」


「……いい」




好きの反対は



「カロル、エステル。放っておけよ」

「でも…レイヴン可哀相です…」

「自業自得でしょ。いいじゃない、静かになって」


船室のベッドで背中を丸くして寝込んでいるレイヴンを、カロルとエステルが心配そうな表情で見つめる。

リタは視線を手元の分厚い本に注いだまま、興味なさげに言い放った。



「はぁ…ったく、面倒なおっさんだぜ…」

「今おじさまは青春真っ只中なのよ」



ユーリは大きく息を吐くと、いつもより小さく見えるレイヴンの背中を見つめていた。













事件が起きたのは今日の昼頃のことだった―。



「ななしちゃんっ!何してるの〜?」

『あ、レイヴンさん!見てください!』


船室のテーブルの上で何やら紙を広げているななしに声をかける。

レイヴンがななしの横からひょっこり覗き込むと、開封された包み紙の上にガラスの置物が乗っていた。



「何コレ?ガラス細工?」

『はい、不死鳥の形をしてるんですよ!』

「ななしちゃんが買って来たの?」

『いえ、いただいたんです』

「…誰から?」

『ハリーさんです!』


ななしの口から出た意外な人物にレイヴンは目を丸くした。


「ハリー!?何でアイツが…」

『私もよくわからなかったんですけど、これからもよろしく頼むって…』



レイヴンの心に、沸々と疑問と不安が湧き出てくる。


「(よろしく頼む…!?まさか…ハリーもななしちゃんのこと狙って…!?)」


そんなレイヴンの考えをつゆとも知らないななしは、綺麗ですね〜とハリーからのプレゼントを眺めていた。




すると、レイヴンは乱暴にガラスの置物を掴んで不機嫌そうに言った。


「…これ、返してくる」

『え!?ど、どうしてですか…!?』



驚いた顔をするななしに、レイヴンは拗ねたようにそっぽを向く。


「他の男からのプレゼントなんて…受け取ってほしくない」

『でも、ハリーさんはそんなつもりは…』

「どうしてそんなコトわかるの?」



苛立ちの所為で言葉がキツくなる。

どうしてハリーが彼女に気が無いと言える?自分はいつだって、彼女が他の男の元へ行ってしまわないかとヒヤヒヤしているというのに。


『そ、それは…』

「大体ななしちゃんは無防備過ぎるの!他の連中がどんな風にななしちゃんのこと見てるかなんて、知らないでしょ?」

『どんな風って…』


彼女は自分の魅力に気付いていない。それが更にレイヴンの心を荒げた。


「男なんてそんなもんなの。ハリーだってきっと…」


『そんな言い方酷いです!!』


滅多に怒らないななしが、目元を潤ませながらそう叫んだ。レイヴンは驚いて言葉に詰まる。


『ハリーさんは優しくて親切な方ですよ!?もちろん…他の方だって…!』

「っ…ななしちゃ…」





『そんなコト言うレイヴンさんなんて、嫌いですっっ!!』





まさに会心の一撃とはこの事。ななしは泣きそうになりながらレイヴンの横をすり抜けて走って行ってしまった。



「き…嫌い……」


ななしの言葉を繰り返して、手元の置物を見つめる。レイヴンはそれをテーブルの上にコトンと置くと、そのままフラフラとベッドへ倒れ込んだ。




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