「風よ起これ…サッと吹いてサッと切れ!」 「風よ切り刻め…!」 「「ウィンドウカッター!!」」 『「「「……」」」』 「ちょっと〜!おたくら見てないで戦ってよ!」 ひとつ分の陽だまり 「いや、悪ぃ…不思議な光景なもんでつい…」 「レイヴンとシュヴァーンが戦ってます…」 「つくづく不思議な所だな、ココは」 ユーリ達は今どこに居るのかというと、トリブダイ山脈付近に突如現れた謎の歪みの中だった。 そこは過去に訪れた遺跡、洞窟などがぐちゃぐちゃに繋がったまさに迷宮のような場所だ。嫌がるリタやカロルを無視して、ユーリ・ジュディスの戦闘狂コンビがズンズンと先に進んでいき、ある場所に辿り着くとそこにシュヴァーンが居た、というわけだ。 「コイツの顔見てると、なんかムカついてきたわ!」 「リタっち、なんかそれちょっと傷つく…」 「うっさい!!サンダーブレード!!」 問答無用で斬りかかってくるシュヴァーンに、容赦なく上級魔術を放つリタ。 「よっしゃ、んじゃ普段の恨みも込めてやりますか!」 「そうね、相手は偽者だもの。いくら殴っても問題ないわ」 「おっさん複雑だわ…」 そう言いながら、各々が散って戦闘を始める。しかし、複数人を相手にしても怯むことなく向かってくるシュヴァーン。かなり長期戦になりそうだった。 「つ、強い…!」 『カロル君、大丈夫ですか!?』 非戦闘員として控えていたななしが、疲れきった様子のカロルに駆け寄り治癒術を使う。 「「ななし!!」」 すると、突然ユーリとジュディスが叫んだ。 焦ったような声にななしがハッとして後ろを見ると、すぐそこに剣を構えたシュヴァーンが立っている。 地面に膝を付いていたななしは、動くことが出来なかった。それにななしが避けてしまうと、目の前に座り込んでいるカロルに被害が及んでしまう。ななしは咄嗟にカロルに覆いかぶさり、守ろうとした。 「ななしちゃん!!」 レイヴンは弓を構えて、シュヴァーンを狙う。 が、次の瞬間。矢は放たれることなくレイヴンが間抜けな声を出すだけだった。 「は…?」 身を固くして目を瞑っていたななしも、何の衝撃もないことを不思議に思い恐る恐る目を開ける。 すると、目の前に肩膝をついてコチラを見つめるシュヴァーンが居た。 『え…?』 「美しいお嬢さんだ…」 「「「「え」」」」 「何、どういうこと?」 ななしのすぐ傍に居たカロルが不思議そうに言った。シュヴァーンはななししか見えていないのかと思うぐらい、ななしの瞳をじっと見つめている。 「貴女の名前は?」 『あ、私ななしと申します!』 ななしは慌てて自己紹介をし、ペコリと頭を下げた。 「私は帝国騎士団隊長首席、シュヴァーン・オルトレインだ」 シュヴァーンはそう言いながら流れるような動きでななしの手を取り、甲に口付ける。 『えっ!?///』 ななしが驚いたように声を上げると、シュヴァーンは目を細めフッと笑った。 「ちょっと待ったー!!」 それまで呆気にとられて立ち尽くしていたレイヴンが二人の間に割って入った。そしてななしを抱きしめながらシュヴァーンを睨む。 「ななしちゃんは俺様のなの!!」 「何だ、貴様は」 「なっ…俺様の幻のくせに…!」 他のメンバーはそのやりとりを一歩離れたところで見守っている。 「えーと、何が起こってるんです?」 「偽者も結局はおっさんだったってことだな」 「根っからの女好きね、あほくさ…」 「そして好みの女性も同じ、というわけね」 「貴女のような麗しいお嬢さんが、こんなむさ苦しい男と想い合っているとは思えんな」 「自分で自分にむさ苦しいって言ってるよ…」 『このシュヴァーンさんは、レイヴンさんの記憶は持ってないんでしょうか…』 カロルとななしは小声で話しをする。 「ふん、上等よ!どうせお前さんは幻に過ぎないんだから、ここでちゃちゃっと片付けてやるわ」 レイヴンはななしを自分の背中に隠すと、弓と小刀を構えた。それを見たシュヴァーンも再び剣を抜き、無言でレイヴンを睨み返す。 『カ、カロル君!この場合はどちらを応援すればいいんでしょうか…!?』 「いや、本物でしょ…」 『でも…』 ななしは、ハラハラしながら二人を見守っていた。 そしてレイヴンとシュヴァーンは同時に動き出し、決闘が始まった。外野のメンバーは暢気に応援をしている。 「レイヴーン!頑張ってくださーい!」 「おっさん!気張っていけよ!」 「バウ!」 声援を受けて、レイヴンが不敵な笑みを浮かべた。 「フフン、羨ましいでしょ?」 「クッ…戯言を!」 レイヴンはしなやかな動きで相手を翻弄し、シュヴァーンは力強い動きで押していく。 「おっさんも、普段からあれぐらい動いてくれりゃ楽なんだけどな」 「あら?私達の楽しみが減ってしまうかもしれないわよ?」 「それもそうだな…」 「戦闘狂どもが…」 ユーリ達がそんな会話をしていると、キンッという音が辺りに響いた。 レイヴンがシュヴァーンの剣を弾き落としたのだ。額に汗を浮かべたレイヴンが、小刀をシュヴァーンに突きつける。 「勝負あり、ね?」 「……」 「シュヴァーンはもう死んだのさ…とっとと消えちまいな…!」 そう言って、レイヴンがトドメをさそうとしたその時。 [#next]>> index; |