犬の鼻はごまかせない


「…ん?なぁ、最近ミルクの減りが早くないか?」

『そういえばそうですね…』

「どーせ、ガキンチョが飲んでるんじゃないの?」

「僕!?そりゃ背は伸ばしたいけど…そんなにいっぱい飲んだらお腹壊しちゃうよ」



本日の食事当番であるユーリが、食料袋を覗き込みながら首を傾げていた。


『全然ないんですか?』

「いや、まだ少しはあるんだけどな…。これじゃあクレープは無理だな」

「って、ちょっとアンタ!クレープ作る気だったの!?」

「ユーリ、夕食にクレープはどうかと…」

「そうか?しゃーねぇ、牛丼でも作るか」


周囲にいたメンバーはユーリの甘味好きに呆れながらも、まともなご飯が食べれることにほっとしていた。


「いいじゃない。甘いもの嫌いなおっさんにはありがたいわ〜」


レイヴンが頭の後ろで手を組みながら言う。ユーリはその言葉にムッとしながらも食事を作る作業を続けた。








そして、次の日の朝。


「あれ?」


今度はカロルが食料袋の中を見て声を上げた。


『カロル君、どうしたんですか?』

「まさかまた緑のつぶつぶパンが出てきたとか言うんじゃないだろうな…」


するとカロルは袋の中を二人に見せながら言った。


「違うよ!ミルクとタマゴが全然ないんだ!それに果物もちょっと減ってる…」


ユーリは何?と眉をひそめ、袋を覗き込んだ。


『ホントですね…。昨日は少し残っていたのに…』

「誰だ…」

「ユ、ユーリ…?」

「誰だ!勝手にミルクだのタマゴだの食ってるやつは!!これじゃあクレープもプリンも何も作れねぇだろうが!!」



「ユーリがキレたー!!」



カロルはユーリのキレっぷりに怯えて、ななしの後ろにさっと隠れた。



「何朝っぱらから騒いでんのよ〜」


そこへ欠伸をしながらレイヴンがやってくる。その後ろのリタも眠そうな顔で目を擦っている。


「また無くなってんだよ…材料が…!」


ユーリの怒気を含んだ声に、レイヴンが驚いて目をぱちくりとさせた。


「な、何怒ってんのよ…青年…」

『なくなった材料は、全部デザートに必要なものばかりなんです』


ななしは困ったように笑いながら、レイヴン達に説明をした。


「へぇ…そうなの」


レイヴンは興味なさげに言って、くるりと身を翻す。


『レイヴンさん?』

「わんっ!」

ななしがどこへ行くのかと尋ねようとしたとき、ラピードが突然レイヴンに向かって吠えた。


「?」

「ガウッ!」


レイヴンも何事かとラピードに目を向ける。すると、ラピードはレイヴンの服の裾をぐいぐいと引っ張り始めた。


「な、何すんのよ!?」

『ラピード!?』


その騒ぎに、イライラしながら食料袋をのぞいていたユーリが顔を上げた。


「…ラピード。もしかしておっさんが犯人なのか?」

「わぅ!」


ユーリの問いに、ラピードが肯定するように返事をした。


「や、やぁね〜青年!おっさんがそんなことするわけ…」

「言っとくがこの中で一番信頼度がねぇのはおっさんだからな?」


その言葉にしょんぼりしたレイヴンをななしが慰める。




「で?レイヴンが盗んだの?」

「ぬ、盗んだなんて人聞きの悪い…!」

「材料減らしたことは認めるんだな?」


カロルの質問に思わず口を滑らせるレイヴン。それを聞いたユーリが仕事人モードの表情でレイヴンに詰め寄った。


「ななしちゃぁ〜ん!!青年たちがいじめるよー!」


泣き真似をしながらレイヴンはななしの背中に隠れた。ななしは、落ち着いてくださいとユーリを宥める。


「で?腹でも減ってたのかよ?」

「……」

「言わねぇと叩っ斬る」

「わ、わかったってば!顔怖いから!」


ななしも体をレイヴンの方に向けて、興味津々な様子で言葉を待っていた。




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