が、レイヴンはしばらく地面を見つめたまま黙っていた。

話がある、とは言ったものの何と切り出せばいいのかわからない。自分の情けなさに思わずため息が出そうになる。いつもの軽薄な自分はどこへ行ってしまったのか。

でも、ななしはずっと待ってくれている。



レイヴンは意を決して、ぽつぽつと話し始めた。



「その…おっさんはさ、なんつーか…ななしちゃんにすごく感謝してる」


感謝してる?確かにしてるけど、今言うべきはそれじゃないでしょ。


「それで、まぁアレよ。おっさんも…お返ししたいっていうかー…」


お返しって何よお返しって。


頭の中で、気持ちを伝えたい自分と伝えたくない自分が葛藤を繰り返す。



でも後悔だけはしたくない、絶対に。



「だから!…俺は、ななしちゃんと…一緒に居たい…ずっと、この先も。…ななしちゃんが、好きだから」


本当に情けないことに、声が少し震えていた。


『…え…?』


ななしは、案の定驚いた表情をしていた。自分は今どんな顔をしているのだろう、なんてどうでもいい事が頭に浮かぶ。






数秒の静寂が、とても長く感じられる。

拒絶の言葉を覚悟していたレイヴンだったが、それはあっさりと裏切られた。ななしが思い切り抱きついてきて、予想外の行動にレイヴンはたじろぐ。


「え!?ななしちゃ…」

『嬉しいです…!!私も、ずっと一緒に居たいです!』


そう言って、抱き付きながらレイヴンを見上げるななし。


「ななしちゃん…いいの…?」

『はい!』

「俺、おっさんだし…うさんくさいし…」

『私は…うさんくさいおじさん、大好きですよ?』


頬をピンク色に染めながら、笑顔でそう答える彼女はとても愛らしかった。レイヴンもななしの背中に腕を回し、思い切り抱きしめる。



「ありがとう…ななしちゃん」







どれぐらい、そうして居ただろうか。レイヴンは、ななしが薄着なのに今更気が付いた。それほどまでに切羽詰っていたらしい。


「ななしちゃん寒くない!?ごめん、おっさん気付かなかったわ…」


そう言って慌てて自分の上着を彼女の肩にかけた。


『大丈夫ですよ、レイヴンさんが暖かいから…』

「まいったね…」

『レイヴンさん?』



ななしが、レイヴンの呟きを聞いて顔を上げた瞬間、唇に柔らかい感触が降ってきた。


「ななしちゃんが可愛いこと言うから…おっさん我慢出来なくなっちゃったじゃない」


そういうレイヴンも頬がほんのり赤い。もちろんななしは顔が真っ赤だった。


『い、いきなりなんてズルイです!』

「なぁに?じゃあ、先に言えばいいの?」

『そういう意味じゃなくて!』


ななしは、見回りの兵士さんも居るのに…!と呟きながら恥ずかしそうにしている。レイヴンはそれを幸せそうな表情で見つめていた。

まさか自分の気持ちを受け入れてもらえるなんて夢にも思わなかったから。


「こりゃ、最後も気張っていかんとなぁ…」



彼女の為にも、死ぬわけにはいかない。

既に一度死が訪れた自分には、未来を生きるなんて選択肢はないと思っていた。けれど、ユーリ達と出会って救われた。そして今、目の前にいる少女が自分にとっての生きる希望となった。



「ななしちゃん、絶対勝って一緒に帰って来ようね」


そう笑顔で言えば


『はい!もちろんです!』


彼女も満面の笑みで返してくれた。そしてレイヴンはななしの手を握り、ありがとう、と囁いた。


「(ジュディスちゃんにもお礼を言わないとね)」



そして、二人で肩を寄せ合いながら夜空を眺めていた。共に歩む未来を思い描きながら。





END




「シュヴァ…ただのレイヴン殿ぉ!おめでとうございますぅぅ!!」

「か、感動しましたぁぁぁ!!」

「ちょっ…何だよお前ら!いいから見回りの仕事してなさいって!」

『///』




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あとがき

おっさんがだんだん偽者になっていく…。ヘタレイヴン大好きです。




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