生憎縁がなかったもので(ミキ様宅より) | ナノ









生憎縁がなかったもので






別にクリスマスだからどうってことじゃない。毎年恒例の「なんとか今年は予定あけるから!」という両親の意気込みを「外泊してもいいか?」の一言で叩き潰したのも、「どうせ今年も一人だろ、だったら家に来い」とメールよこした兄に「一人じゃねぇし」ってメール返したのも、期待とか、そんなんじゃない。ただ、ちょっと、もしかしたらって思っただけ。ものすごく恥ずかしいが一応恋人?とか言える関係だし、姫川の奴がなんか誘ってきた時に予定が入ってたらまずいかな、とか。俺なりに考えて。だからいつ誘ってきてもいいのに。

「……」

なんの行動もないとはどういうことだ。相変わらず学校ではぽちぽち携帯弄って、でも俺にメールこねぇし、なんか疲れてるみたいに見えるけど、でも俺を誘ってこねぇし。今もう22日だぞ。イブもクリスマスももうすぐそこだぞ。普通、もっと早く予定とか聞いてくるもんなんじゃねぇの。予定あいてるかとか、どっかいこうとか。いや、別にクリスマス一緒に過ごそうとか考えてたわけじゃねぇけど、でもなんかこう、なんか、なんかなんだよ!

「……おい」
「…んだよ?」

だから、嫌で嫌でしょうがねぇけど、どうしてもってわけじゃねぇけど俺から声かけてみることにした。日にちギリギリになって声かけ辛い、なんて繊細なことこいつが考えてるわけねぇとは思うけど、でももしそうなら可哀相だし。俺の声に伏せていた顔を上げた姫川はグラサン越しにも隈ができてんのまるわかりで。え、何こいつ。なんでこんな顔してんの。明らかに不機嫌そうな様子にちょっと引いてしまう。思わず黙り込んだ俺に姫川はイライラ頭を掻いた。

「……なに」
「ぇ あ、24、…あ゛〜、…25、とか」
「………」
「暇、だったり… その、」

くそっ、熱い。顔がとんでもなく熱い。最後まで言い切れずに声がどんどん萎んでいく。言いてぇことちゃんと伝わっただろうか。不安になりながら姫川を見るとなんだか先ほどよりももっと険しい顔があった。なんでだ。

「……俺が暇そうに見えんの」
「え、」
「暇そうに見えんのかっつってんだよ」
「いや、…えっと、ひめか」
「仕事仕事仕事だ馬鹿。24、25どっちもクソどものパーティーだよ毎年毎年飽きずに良くやる」
「……え」

桶かなんか振ってきたんじゃねぇの。そんな感じで脳みそ揺れた。さっと冷えた指に考えていた以上に期待していた自分を知って死にたくなる。はしゃいでんな、頭足んねぇ馬鹿が。よくよく考えればわかるだろ、俺と一緒でたぶんこいつはこういうイベントごと全部潰してきたんだ。御曹司、クリスマス、パーティー、言葉だけ見ればはまりすぎてて逆に笑えてくる。何お前、そんな頭でパーティーとか(笑)こんな風に言えばいい。でも笑えなかった。笑えねぇよなんか泣きそう。ぐっと腹に力を入れると姫川の顔が少しだけ滲む。まだなにかいらいら愚痴っぽいこと言ってる姫川は俺の顔見てないからたぶんバレてはいないだろう。バレる前にとっととどっか行こう。

「……、だから神崎、」
「わかった、もういいじゃあな」
「あ゛? おい」

頭が痛くてふらふらした。姫川はまだなんか言ってるみたいだったけれど、こっちは歯を食いしばるので精一杯だ。振り向くだけの余裕なくて後ろ向いたまま手だけ挙げる。くそ、城山。夏目も呼んだら来るか。ふらふらしたまま学校出て、呼びつけた二人つれて強引にデザートバイキングに行った。クリスマス限定だか何だか、とにかくふわふわしたケーキがたくさんあって、どれもこれも死ぬほど食べて家で吐いた。泣けた。