愛と優しさを頂戴 男神 | ナノ













男神

















隣で阿呆面丸出しで眠る男の顔を、片肘ついてぼんやりと眺めた。
心地よさ気に寝息をたてるその様は、まるでこいつがいつも背負っている赤ん坊のようだった。
先程までは荒々しい男の顔をしていたのに、今となっては年相応、いや実年齢以下のように幼い顔をしている。
不思議な奴だ。
そう思いながら、男鹿の額を撫でた。
















ほんの数ヶ月前まではまだ中学生だったのだ。
そう思うと、こいつがえらく年下のように思えて更にむっとした。

男鹿とそういった仲になって早いものでもう半年。
その間に幾度となくこういった展開になったが、いつも男鹿が流れを作って勝手にこちらをそういうことに持っていく。こちらの都合なんて男鹿には一切関係なくて、時には無理矢理なんてことも多々ある。
今日も今日とて、当初は別にそういった空気はこの部屋には充満していなかった。
男鹿の部屋で、ただゲームをしていたのだ。
正直言うと、昨晩も俺の家の方でそういうことをしていて、身体のあちこちが悲鳴を上げていたので男鹿の部屋では、悪いが寝させてもらおうと決めていたのだ。
なのにこいつは嬉々とした顔でゲームのコントローラを手渡してきた。ほら、こっちの都合なんて無視だ。
呆れた顔しつつもそれに付き合う自分も自分だが、少しは労ってほしい。
しょうがなく二人でゲームをした。ゲームが終われば寝ればいい。そう考えていたのだが甘かった。
ゲームを初めて半時間程してからだろうか。
男鹿が急にコントローラを放り投げてこちらに覆い被さってきたのだ。
そのまま後ろ手にあったベッドに二人でダイブするようになだれ込んで、突然なことに頭が白黒する俺をほったらかしに、男鹿は俺に馬乗りになって服を脱ぎだした。



「お、おい!何してんだ!」



まさかと思うがまさかなのか。
次に俺の服に手をかけだした男鹿の腕を掴んで制止するよう呼び止めたのだが、男鹿は聞く耳を持たずそのまま胸元に顔を埋めだした。
このままでは本当にやばいと思い再度声をかけて男鹿の頭を何度も叩いた。



「おい男鹿!急に何なんだ!」



多少息はあがったがそう叫ぶと、男鹿はようやっと顔を上げ、不思議そうなこちらを見るとさも当たり前かのようにこう言った。




「俺、急にやりたくなっちゃった」



そのまま男鹿は俺の首筋へと顔を埋めてきた。
唐突過ぎやしないか。呆然とする俺を余所に、男鹿は着々と事を進めていくのだ。






「……」





なんて若いんだろうか。
あのあとそのまま流されてこいつのしたいようにされた。
いや流された俺も俺なのだろうが、それにしたって俺の都合は完全に無視で勝手に事を進めていくのは些かどうだろうか。
何だか腹の辺りがむかむかしてきて、額を撫でていた手を止めて、阿呆のように口を開けてだれている頬を少し力を込めて抓った。




「…う」




抓られる頬に、眉間に皺を寄せてこちらの手を払おうとぶんぶんと手を振る男鹿に苦笑した。まだ起きようとしない。




数日前もそうだ。
学校で城山と夏目とで昼飯を食べていた。
すると男鹿からメールが入って、何事かと確認してみると「屋上に来ればいいもんやる」とのこと。
また何かふざけた事を考えているのかと思いつつも、城山達に別れを告げ屋上に向かうと、男鹿がコンクリートに寝そべっていた。
どうしたと聞くと、男鹿は空を見ながらこちらを手招きした。
近寄って腰を下ろすと男鹿は当然のように膝に頭を寄せてきて、そのままこちらに手を伸ばしてきてキスをねだった。いや無理矢理キスをしかけてきた。
頭をかがめて仕方なくそれに応えてやると、重なるだけだったそれが深くなる。
放っておくといつまでも重なっていそうで、苦しくなってきて男鹿の肩を押して離れた。




「…男鹿、いいもんやるって、何だよ」





真下にある男鹿の頬をべちべちと叩きながら聞くと、男鹿はまた不思議そうな顔でこちらを見て、そう、さも当たり前かのようにこう言ってのけた。





「いいもんって、これ」





そう言ってまた乱暴にキスを寄越してきた。




「…」




ただお前がしたいだけじゃねえか。
そんな反論は唇とともに塞がれて、その後ずっと男鹿の気が済むまで、つまり昼休みが終わるまでずっとキスが続いた。
嫌だと言っても聞く耳を持たない。自分の気が済むまでずっとくっついている。
正直息が出来なくて苦しかったし、それから暫く首が痛んだ。
まあ身体を重ねなかっただけマシかもしれないが、それでも男鹿がねだればねだるだけキスに応えてやる自分に嫌気がさした。






「……」





男鹿の額を指で弾いた。
男鹿はまた顔を歪めて手を払おうとする。
そもそもこいつは、年下なのだ。
年下と言ってもたった二つしか変わらないのだが、学生の頃の年の差というのは割りと大きなもので、大人での二年の差よりも学生での二年の差というのはそれだけ経験の数が違う気がする。
なのに男鹿といると、年上の余裕というものが自身に一つも感じられない。
調子が一気に狂うのだ。
どこまでも相手のペースに流されていて、気付けば振り回されてへとへとに疲れている。
どうしたものか。二年という経験の差は確かにでかいものだろうが、若さまでこうも違うのか。
思わず溜息をついて、腹いせに男鹿の額をべちりと叩いた。



「がっ」



漸く男鹿は目を覚まして、寝ぼけ眼な目を擦りながらこちらに顔を向けて何するんだと言った。
その頬を抓って別にと返して立てていた肘を突っ伏して枕に顔を埋めた。
男鹿がもそりと身体を起こして、こちらに手をついて覆い被さってきたのを感じて、首を捻って男鹿を見た。
しないからなと一応形だけでも拒否の意思を示しておくと、男鹿はにんまりと笑って俺が寝てる間に何してたんだと言ってきた。
実際特に何もしていなかったので、別に何もと答えたのだが、男鹿は再度にやりと笑って顔を近付けてきた。







「何だよ、俺に見惚れてたの」







生意気にもそう言う男鹿の鼻を摘んで、余裕たっぷりに笑ってやった。











「寝言は寝て言え、僕」







後書き