僕に愛を!1 東神男 | ナノ








男vs東→神





「古市よ」


古市は微かに顔を歪めた。

照り付ける太陽の中、何の理由も無しに男鹿に公園へ来いと呼ばれた。
こんな暑い中公園なんぞ誰が行くかと無視してやろうと思ったが、男鹿がしつこく何度も電話を寄越してきたので、根気負けして渋々やってきた。
こんな暑い中公園にいるのは古市と男鹿のみのように見えた。一番太陽が照り付ける時間帯だ。天候なんてもろともしない小さな子供ですら、外に出ていない。蝉の鳴き声が耳につきうるさい。
古市は溜息をつきたくなった。
何が悲しくてこんな暑い中、男二人が誰もいない公園のベンチで座っていなくてはならないのか。
遅れてやって来た古市に、男鹿は何を言うでもなく暫く無言だった。
長い沈黙が続くので、いい加減帰ろうかと古市が腰を上げた時、男鹿は古市の名前を呼んだ。冒頭に至る。



男鹿がこう名前を呼ぶ時は、大抵ろくでもないことを言い出すのが常であった。
いやそもそもこんな風に呼び出された時点でろくでもない用件であることは確定していのだが。
古市は微かに顔を歪めた。
仕方なく再度腰を下ろしたが、返事をするのが嫌で黙っていると、男鹿は気にした風でもなく言葉を続けた。



「俺は、神崎が好きだ」



古市は大きく顔を歪めた。
そしてげんなりと溜息をついた。
そんなことを改めて言う為に呼び出したのか、と怒鳴ってやりたかったが、怒鳴る気力すら削げ落ちた。

男鹿が神崎を気に入っていることを、古市は嫌という程よく知っている。
学校で神崎を見付ければ、光の如く速い勢いで近寄り、神崎にまとわり付く。
余計なちょっかいを出しては、神崎に心底嫌がられる。相手は本気で嫌がっているのに、男鹿の残念過ぎる頭ではその反応を照れ隠しとしかとっていない。
三年のクラスにまで足を運び、神崎に付き合えと強要する男鹿は端から見るとあくどいそういう人にしか見えない。
神崎はその度、面倒臭そうに男鹿を適当にあしらう。本気で嫌がっているのだ。
しかし男鹿はめげない。いや馬鹿なのだ。
古市はその光景をべる坊と眺めるのが常日頃であった。

古市はこれから発せられるろくでもない言い分のせめてもの逃避として、男鹿の膝に乗り眠るべる坊の穏やかな寝顔を眺めた。
幼子の寝顔というのはどうしてこれほどまでに愛らしいものなのか。
しかし、そんな一時の安らぎを壊すのも男鹿である。男鹿は全てを破壊する。



「しかしだな、古市よ。愛し合う俺と神崎の仲を裂こうとする不穏な輩がいるのだよ」



愛し合ってはいないと思うが、神崎にいたっては物凄く迷惑をしていると思うのだが、男鹿の脳内ではそんな事実はないらしい。
つくづく都合のいい頭だと古市は鼻を鳴らしそうになるのを堪えた。



「…その不穏な輩ってのは?」



放っておいてもこいつは永遠しゃべり続けるだろうと、古市は半ば投げやりに男鹿に尋ねた。
男鹿はうむ、と重々しく頷き一人の男の名前をあげた。



「東条だ」