sss | ナノ
十♀+まも+鈴






もんじ♀








「十文字さんは、好きな人とか、いたりしないの?」

青くて綺麗な瞳を輝かせて、こちらを見つめる。甘い色をした茶髪を耳にかけて、小首を傾げる。可愛くて女の子らしい仕種に、十文字は同性ながらどきっとした。
唐突な問い掛けに言葉を詰まらせていると、まもりの傍らにいた鈴音が興味津々といったような満面の笑みで、その細い身体を乗り出した。見開かれた大きな瞳は、まもりと同じく異様な光を放っていた。

「私も気になってた!もんじ、ぜーんぜんそんな話しないんだもん」

うふふ、とでも言い出しそうに口端を緩ませながら頬杖をつく鈴音は、まさしく女の子といった感じだった。

「十文字さんのそういう噂、学校でも一切聞いたことないの。美人なんだから、一つくらいあってもいいもんだけど…」
「まさか、もう付き合ってる彼氏がいるとか!?」

やー!
喜色満面で叫ぶ鈴音と手を合わせて跳ねるまもり。女の子だなあ、と他人事のように思いながら、手元のペンを握り直した。

「彼氏も、好きな人も、いない」

それほど力を込めているわけでもないのに、ペンを握る右手の甲に骨がくっきりと、血管がうっすらと浮かび上がっている。手を取り合うまもりと鈴音の手は柔らかそうで、小さかった。選手のデータを書く紙に連なる自分の字は、角張っていた。側に置いてあったまもりが書いた部誌に羅列する字はとても丁寧で、丸みがあった。

「えー、ほんとにー?」
「いたらもうちょっと女らしくするだろ」

不満そうに唇を尖らせる鈴音に苦笑しながらそう言うと、じゃあいい人が出来たら教えてねと眩しい笑顔で細い小指を差し出された。すると隣から、私にも教えてね、約束よとまもりも小指を絡ませた。
二人の笑顔はとても眩しかった。








「十文字、帰りにラーメン食おうぜ」

部活終了後、黒木と戸叶の着替えを待ちながら部誌を書いていると、黒木がラーメンラーメンと喚いた。

「どこの?」
「駅前。今日大盛りデーなんだよ」
「お、いいな」

俺、とんこつ。俺はみそー。
どの味にするか決めだした戸叶と黒木の声を聞きながら、自分も何にしようかと考えていると、友人二人にしては高すぎる声が耳に響いた。

「えー!もんじまたラーメン?」

たまには私達とパフェでも食べに行こうよ!
鈴音が悲鳴に近い声を上げた。不満げな顔で鈴音はパフェパフェパフェと駄々をこねる。唐突な誘いに困ったなと眉を寄せていると、隣でシャツのボタンをとめていた戸叶にたまには行ってこいよと背中を押された。

「え、や、でもラーメンは」
「ラーメンは先週も食った。お前甘いの好きだろ。たまには女子らしくアイス食べてこい」
「アイスじゃなくてパフェな」

アイスとパフェの区別も曖昧な戸叶に黒木が呆れた顔で訂正する。そして黒木も戸叶と同じようにパフェを食べてこいと勧めた。

「じゃ、決まりだね」

鈴音がにっこりと笑う。
その奥でユニフォームを回収していたまもりも、嬉しそうに笑いかけてきた。








今思い返してみると、女友達は一人もいなかった。というよりも男女に関係なく、友達自体がそれほど多くなかった。いや、改めて考えてみると、黒木と戸叶以外に友人なんていないんじゃないだろうか。大して気にしたこともなかったが、よくよく考えると割合寂しい友人関係だ。十文字は目の前で楽しげにメニューを見つめる先輩とチアリーダーを見つめながら、ぼんやりとそう思った。

「もんじ決まったー?」

大きなメニューからひょっこりと顔を出す鈴音にはっとする。自分の手にあるメニューを慌てて持ち直すが、今までぼんやりとしていたのにいきなり注文が決まるわけがない。素直にまだ決めていないと返すと、それならとまもりがメニューを指差した。

「これ美味しいわよ。苺が沢山のってるの。十文字さん、苺好きだったわよね?」

先日まもりが差し入れにとケーキを買ってきた。皆思い思いのケーキを取る中、十文字は真っ先に苺のショートケーキを選んだ。それをまもりは覚えていたらしい。
じゃあそれでと答えると、鈴音が待ってましたとばかりに店員を呼ぶ。やって来た店員はふわふわのワンピースに白いフリルのエプロンをかけた柔和な顔をした若い女性だった。

「えっと、鈴音ちゃんマンゴーパフェよね。マンゴーパフェ一つと苺パフェ一つ、あとチョコバナナパフェ一つお願いします」

まもりが注文し終えると、その店員は店員お決まりの文句を言ってからピンク色の唇で綺麗に弧を作り、ぺこりと頭を下げて厨房に消えて行った。エプロンのリボンが、踵を返した時にふわりと揺れた。

「今の店員さん可愛かったね」
「ここの店員さん、いつ来ても皆感じいいのよね。制服も可愛いし」
「分かる!」

まも姉絶対似合う!
確かに姉崎さんなら似合うだろうなと頭に思い浮かべる。
服の話や店員が可愛いという話。どれもこれもが十文字にとっては新鮮な話だった。女子とこうして遊ぶのは十六歳にして初めてだった。遊ぶのはいつも黒木と戸叶、三人でだった。確かに黒木達と遊ぶ時でも服や店員の話はするだろう。今の店員のスカート丈がエロいだの胸元がエロいだの顔が好みだの、しかし同じ話題なのにこうも印象が違うものか。黒木や戸叶と遊ぶ時に聞く服や店員の話は、思うと実にげすいものだった。
そういう会話にはいやがおうでも慣れている十文字だが、まもりや鈴音がする可愛らしい会話には正直ついていけなかった。
ドラマの話や俳優の話、ファッションの話や友人の恋愛話。多種多様に繰り広げられる聞き慣れない会話に十文字は目をくるくるさせながらどうにか相槌を打った。

「あ、そうだ!もんじ好きな人出来た?」
「ぶふっ」

オレンジ色のとろとろしたマンゴーソースがかかったバニラアイスがのった小さなスプーンをこちらに突き出して、鈴音は唐突にそう言った。口の中の苺が吹き出しそうになったのをすんでのところで止める。

「な、んだよ急に…」
「この前言ったじゃん、好きな人出来たら教えてくれるって」
「いや、言ったけど…それ一週間前だろ」
「だから!この一週間で出来たかって聞いてるの!」
「あほか!そんなぽんぽん出来るわけねえだろ!」
「そんなことないわ!」

まもりが机に拳を置く。白い手は確かに女の子のものだが、しかし女の子にあるまじき力強さが見えた気がした。
まもりの青い目が真剣さを帯びている。机に置かれた手がスプーンを持ち直し、こちらに伸びてきた。

「十文字さん」
「え、はい…」
「この苺パフェ少しもらえるかしら」

なんて真剣な顔だろう。
十文字はさっと自分の器をまもりに差し出した。
ありがとうと返しながら、まもりはソースがかかった苺のアイスをすくいとり、ゆっくり口におさめた。そしてスプーンを自分の器に差し込み、強い眼差しで十文字を見据えた。

「人は、一週間あれば人を好きになれるわ」










何が書きたかったのか忘れました。
ヒル十だったはずなんだけどな…。





人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -