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銀土(ss)





転生ネタ









例えば彼の匂いだとか、仕種だとか、表情だとか。
街の風景や友人との会話、季節の変わり目、何てことはない日常に彼は沢山潜んでいて、ふと思い出すのだ。
それはどれもこれもがひどく愛おしく、そしてどうしようもないくらいに重くて、にがくて、胸や喉を締め付けて息の仕方を忘れさせる、記憶という殺人者だった。










夏になるとひぐらしの鳴き声を思い出す。
高校三年生の夏休みは、あってないようなものだ。大学に進学する生徒は毎日夕方まで補習を受け、就職する生徒は、やはり毎日学校で面接や入社試験の勉強をする。
土方は前者だった。平常授業よりも些か長い補習を受け終わり、それに加えて図書室で自習を終えて学校を出ると、外は橙色に染まっている。暑さも弱まり、幾分過ごしやすくなるこの時間を歩いて帰るのが好きだった。ひぐらしの鳴き声は聞こえなかった。

インターハイに向け、必死に練習を重ねてきた部活は、奇しくも三年の夏休み前に終わった。
型にはめて竹刀を振る剣道と、真剣を持ち人を斬る仕事とは、やはり違いがあった。ふと、刀を持ちたいと思うことがあったが、生憎今の時代では刀で人を成敗する生業は必要ないのだ。
昔の部下や上司にそっくりな同級生達は、爽やかな汗を流しながら一生懸命に竹刀を振る。ときたまに、むなしいと感じた。
今や同じ十八歳、友人となった以前の部下と上司と話をしていると、どうしても昔を重ねてしまう。
あの時はこうだった、あんなことをした、大変だった、楽しかった、嬉しかった。
彼らとの会話は高校三年生のもので、決して、真選組局長、副長、隊長としての会話ではないのだ。
ただ学校の話をしているだけなのに、昔を重ねて返事をして、訝しげな表情を向けられる。むなしい。







「今日はこのプリントなー」

気怠げな声が、耳の中で反復される。
前から配られるプリントを受け取りながら教卓の方に目をやると、担任は声と同じように怠そうな態度で黒板に背中を預けていた。あいつは昔もああやって怠そうに立っていた。過去の断片に目眩がしそうで、慌てて目を伏せた。

「今から十分で終わらせろよ、ほい始め」

担任はそう言って、パイプ椅子を教卓から引き出しどかりと腰掛けて大きな飴を舐めだした。教室に甘い匂いが満ちた。
この甘い匂いはあいつの匂いだった。昔も、あいつは身体中から甘い匂いをさせていた。その当時はその匂いがとても好きで、側から香ってくると安心した。今では安心する所かなぜかよそよそしく感じて、甘い筈の匂いが苦く思えた。あまり好きではなかった。窓の外に見える校庭に生えた木は、昔、あいつが剪定の仕事をしていて落っこちた木を思い出す。呆れる眼鏡、笑う少女を意に介さず、あいつは痛い痛いとのたうちまわっていた。地面で転げまわるあいつを見廻り途中に見つけた時、まるで綿菓子か何かが素早く動き回っているように見えて、思わずふき出してしまったのを覚えている。

「…、」

木なんて、切り落としてほしい。
カーテンをしめて、








はいギブでした。
銀土で転成ネタ。土方は前世の記憶ありですが銀さんは全く覚えてない。
こんな話が書きたかったはずが、案の定無理でした^∪^





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