My little cat is



イェーガー姉妹の朝は、ゆるい。
それはもう、とてつもなくゆるい。


陽光の眩しさを瞼に感じ、エレンはむずがりながらも目を開けた。色素の薄い蜂蜜色の瞳に、朝の光は容赦なく降り注ぐ。エレンは右手だけで枕元に放り出した携帯を探り出し、時刻を確認する。

9時27分。
気の利いた人間ならとっくに起き出しているし、それ以前に学生や勤め人なら遅刻である。エレンは時間を確認して、盛大に寝坊したことだけを理解した。そして焦った様子もなく寝返りを打ち、昨夜と同じくダブルベッドの隣に眠る姉の肩を揺する。

「姉さん、起きて、時間」
「・・・ん、」
「時間、ヤバい。9時半だよ」

エレンの言葉にやっと意識が浮上してきたのか、リヴァイは目を開ける。いつもはきつく鋭い印象の黒曜石のような瞳は、ぼんやりと目の前のエレンを映した。エレンは再度、携帯を開いて時間が見えるようにリヴァイへと向ける。ちなみに、2人とも未だに起き上がる気配はない。


「今日、1限って言ってなかった?もう過ぎてるけど」
「・・・・・・いい。めんどくせぇ」


少しの沈黙の後、諦めたのかリヴァイはエレンの携帯から目を反らした。堪える気もない欠伸を漏らして。エレンはそれを咎めずに、納得したように頷いて携帯をまた枕元に放り出した。
リヴァイはエレンが何も言わなかったことを良いことに、するりとエレンに身を寄せる。素肌と素肌が重なる体温が心地良い。


「・・・お前はバイトじゃないのか」
「んー・・・良いや。どうせ、ヘルプ・・・だし、」


会話をしながらも、リヴァイはエレンの身体にあちこちと触っていく。
リヴァイはエレンの胸を緩く揉み、ふうん、と一言興味なさげに返した。布団の中で足まで絡めると、さすがにエレンも身を引こうとする。

「なに、」
「行かないんだろ、バイト。なら良いじゃねぇか」

なおもエレンの身体に悪戯をしていくリヴァイは、にやりと小悪魔というか、完全なる魔王のようにしか見えない顔で笑う。このあたりでイェーガー姉妹の力量関係が一目でわかるというものだ。

姉のリヴァイ・イェーガーは最寄りから電車で30分の場所にある、この国で一番の最高学府の大学の3回生である。さぞかし真面目な人間かと思いきや、リヴァイは何に対しても奔放な性格で、目上も年下も環境も状況も一切関係なく我が道をひた走っている。そしてそれを納得させるだけの実力もあれば、対応そのものも大体において間違ってもいない。ときどき変なやっかみを買って相手を返り討ちどころか完膚なきまでに捩じ伏せては、後になって相手の言葉に少し傷ついてみたりする、案外可愛いところのある女子なのだ。
一方、妹のエレン・イェーガーは地元にあるミッション系高校の2年生である。姉であるリヴァイの強烈なインパクトをもろともしない負けん気の強い性格をしており、姉と対照的なのは人懐こさと容姿だけという、ある意味では似ても似つかない妹である。エレンは人を見る目に長けているが、空気を読む力はあまり備わっていないためにとんでもない発言をしては周囲を凍り付かせる猛者だ。ちなみに、落ち込むといったことはしないため、一晩寝たら大抵のことはオールオッケーになる大変便利な少女である。

こんなイェーガー姉妹だが、見た目だけは良いため男に困ったことはない。
リヴァイは華奢な体格に白い肌、セミロングの艶やかな黒髪に黒曜石を想わせる瞳をもつ、綺麗系美女である。
対するエレンはすらりと伸びた手足にベビーピンクの肌、さらりとした黒髪のショートに蜂蜜を溶かしたような色の瞳をもつ可愛い系美少女だ。
容姿での共通点は黒髪なところだけだが、服のセンスだとか所作は良く似ているために少し勘が良ければすぐに姉妹とわかる。そのため、2人で街を歩くと結構な確率で声を掛けられるのだ。もちろん、ひとりの時でも同様だが。
ちなみに、現時点でリヴァイにもエレンにも彼氏がいる。

「も、そこ・・・やめ、あ、あ、」
「・・・ん、あ、」
「ね、え、さん・・・あんっ」
「っは、あ」

昨夜だって散々ベッドでお互いを高め合っていたのに、とエレンは思わないでもないが、いかんせん実の姉との行為が一番気持ち良いと感じるのも事実だった。姉のリヴァイとて、エレンの身体を好き勝手しながらの方がより悦楽を感じられると知っている。よって、『彼氏は彼氏でそれはそれ』なのである。


―――


「あ、そーだ!姉さん、」
「あ?」
「今度家にエルヴィンさん連れてきてよ!この前借りたDVDの続き見たいから持ってきてって」
「あー・・・・構わねぇが。わざわざ連れてくるのか?」
「うん!で、この前の苺のシャーベット作ってもらう」
「そっちが目的か」

十分すぎるほどベッドで戯れたリヴァイとエレンはとりあえずベッドから出ることにした。恥も外聞も無く全裸でベッドから降りて服を漁るエレンを見ながら、だらしないと思いつつ自分も服を漁る。もちろんリヴァイも全裸である。
リヴァイが今付き合っているエルヴィンは駅前の喫茶店のオーナーで、20代後半の紳士的な笑顔が似合う男だ。
初めてリヴァイが家に連れてきたとき、エレンはたいそう驚いたようだったが、すぐに打ち解けて今では定期的に家に呼ぶことを催促してくるぐらいだ。エルヴィンもエルヴィンで、歳の離れたエレンを実の妹のように可愛がっている。実際、リヴァイは結婚するならエルヴィンだろうな、とも思っていた。

「おい、お前のブラが入ってたぞ」
「あれ?あーホントだ。紛れちゃったのかな」
「ったく、その胸は一体いつまで成長するんだ・・・・」
「えー。そんなこと言われても・・・こっちだってすぐにサイズ変わって困るのに」

リヴァイから受け取ったブラを身につけながら、エレンは自分の胸を揺らす。エレンの細身の身体にしては大きいそれは、16歳という年齢を考えても些か発育が良すぎる。

「ジャンの奴、揉みすぎなんじゃねぇか」
「それはあるかも・・・ホント執念深すぎて怖いぐらいだしなー」
「・・・マザコンかよ」

エレンの彼氏であるジャンは、エレンと同じ高校の同級生である。今時の男子高校生を絵に描いたらきっとこんな感じだろうという見た目と中身だが、意外と思慮深いし頼もしいところがある。それにしては互いの性格は合わないらしく、エレンもジャンも喧嘩は多い。だが、若いこともあってか大概はなし崩しで身体の仲直りをさせて終了である。本当はジャンも色々言いたいことがあるのだろうが、エレンが一晩寝たらリセット体質なので仕方がない。しかしなぜリヴァイがジャンを知っているかと言えば、エレンとジャンがエレンの部屋でおっ始めていたら、帰宅したリヴァイと鉢合わせるという高校生男子にはトラウマものの出来事のおかげである。

「あ、姉さんのガーター見っけ」
「何色だ?」
「黒ー」
「ああ、そっちにあったのか。探してた」

クローゼットを漁っていたエレンが、黒いガーターベルトをリヴァイに手渡す。リヴァイは受け取ると、身に付けることにしたのか、履いていたショーツを脱ぎ始めた。

お互いに恥ずかしさなどとうの昔に捨て去ってしまったため、うっかりするとストリップショーのような状態だが本人たちは至って当然と思っているので誰も止める者がいない。ジャンが見たら余りの刺激に鼻血を吹いて卒倒するだろう。エルヴィンだってやんわりと目を逸らすに違いない。

「ガーターってさぁ、きつくない?」
「どういう意味だ?」
「だって食い込むじゃん。いろいろと」
「テメェ・・・嫌味か」

ぬら、と立ちあがったリヴァイに、エレンは慌てて首を振る。エレンの豊満な乳房がふるりふるりと揺れた。

「だって、付けると食い込むんだもん!姉さんみたいに細くないから!」
「・・・それは遠まわしにガリだって言いてぇのか?あ?」

リヴァイは骨格が華奢なために、余分な肉がほとんど付かない体質である。辛うじて見られる程度にある胸も、エレンと並べばお飾り程度でしかない。対するエレンはわりとむっちりとした肉感的な体型で、密かに姉の小尻や細い腰を羨んでいた。
要するに、2人とも互いの体型がコンプレックスなのである。
暫く不毛なやり取りと続けた後、エレンの腹の虫が鳴き始めたので一時休戦となった。

もちろん、エルヴィン・スミスはこれから15分後にイェーガー姉妹宅へ召集され、お手製のパスタと苺のシャーベットを作ることになる。そして3時間後には学校をリヴァイとエレンの命令で自主という名の強制でもって早退させられたジャンが、寝室で行われている戯れに参加させられることになるのだが ― それはまだ、ジャンの名誉のために伏せておくことにする。

こうして、イェーガー姉妹の優雅な日々はつつがなく送られていくのであった。

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