この中に1人、弟がいる!



何をしていなくても汗が噴きだしてくるような真夏に、リビングと自室のエアコンが揃ってぶっ壊れた。
修理業者の何件かに電話をしたがどうやら繁忙期らしく、どこも来られるのは明日になるという。同居している弟、エレンの部屋にもエアコンはついているが、布団を敷くスペースはなかった。
仕方ないので一番風通しの良いリビングに布団を敷き、窓を開け放ち扇風機を首降り設定にして回して寝たのだがそれでも暑い。
暑さのせいで中々寝つけないことに若干の苛立ちを感じつつ、明日修理がくるまでの辛抱だと言い聞かせ眠りに落ちていく寸前。

「「「兄貴っ」」」

せっかく寝かけた頃に耳に響いた弟の声で起こされたリヴァイは、こんな日付跨いだ夜中に起こしやがってよっぽとのことがあったのかじゃなきゃどうなるか分かっているんだろうな、というようなことを呻きつつ起き上がり目を開けた。
眼前に弟が3人いた。

「……夢か」
「「「違うって!」」」

どうやら現実らしい。おろおろと「兄さんどうしよう」といった具合にうろたえる様子はどう見ても弟だったが、しかしリヴァイの弟が一卵性の三つ子だった覚えは微塵もない。

「で、なんなんだこの状況は」
「わかんねえよっ!トイレに起きて戻ってきたらベッドに俺が2人寝てて」
「俺は起こされたら目の前と横に俺がいて」
「最後に起きた俺も目の前に自分が2人いてびっくりして、とりあえず兄貴にって…」

三者三様に訳を説明する様子は、やはりどれも弟のそれである。

「世の中には同じ顔の人間が3人はいるというが…どれが本物ださっさと答えろ」

「「「俺だよ!」」」

三人の声がまた揃った。お互いがお互いを睨む。

「俺だって!昨日の朝寝坊して兄貴に蹴り起こされた!」
「着替えるとき慌ててズボン履いて前につんのめってこけた!」
「晩飯のポテトサラダ作りすぎてまだ半分冷蔵庫に残ってる!」

低レベルな争いが繰り広げられる。しかし内容は確かに全部昨日起こった日常だった。埒が明かない。

「でもさ…兄貴ならわかるんじゃねえの…?」

誰が本物か。
そうエレンのうちの一人が言って、他のエレンも縋るような目でリヴァイを見つめた。

二人だけの家族で、エレンとは世間一般の兄弟より相当仲が良いとは思う。
それでも、小説じゃあるまいし。極々一般人のリヴァイに、顔も声も中身も記憶も全部同じな弟は見分けられなかった。         そして見分けられず本物のエレンを傷つけている自分に対し嫌悪感が湧く。
これが夢ならとんだ悪夢だ。


目覚めるとリビングのソファーで寝ていた。電気は消えていたがテレビがつけっぱなしなので、見ながら眠ってしまったのだろう。
身体の下に違和感があったので探るとそれはリモコンだった。下敷きにしてエアコンの停止ボタンを押してしまったらしく部屋が蒸し風呂のようになっていて暑い。妙な夢を見たのもそのせいかもしれない。
TVの隅に表示された時刻は午前6時過ぎ。カーテンの隙間から朝日が射し込んでいる。
時間はまだある、汗だくだったのでシャワーは浴びるにしてもとりあえず、と冷房のスイッチを押した。反応がない。

「「「おはよう兄貴」」」

聞こえた重なる同じ声は夢の続きを視ているのか、それとも正夢なのか。
どちらだ。


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