今日は寝付けが悪かった。布団に入ったのは午前12時。二段ベッドの下で本を読んでいたのだ。兄貴はとっくに寝息を立てて爆睡している。今日も今日とて蒸し暑く、冷房入れないと死んでしまうのではないかと思うほどの熱帯夜だった。
「……あー、ねむれん」
目を閉じても眠気なんか訪れやしない。拉致があかん気分転換だ。思うや否や飛び起きて、窓を少しだけ開けて空を見上げた。
満天の星。キラキラと輝く無数の小さなそれらはとても綺麗で。
これは兄貴に是非とも見せたい。だが起こしたら殺されるに違いない。いいや、一人で星座でも探すか。そう思った途端後ろから低い声がした。
「……おい」
「っ!? あ、兄貴! ごめ、起こした!?」
「……何見てやがる」
どうやら兄貴も起きたらしい(寝起きめっちゃ怖い)。肩に顎を乗せてくるときにふわりと甘いシャンプーの香りが鼻腔をくすぐる。オレと同じシャンプーのはずなのに、兄貴からの香りというだけで変な気分になった。
「星、見てんだ」
「星?」
「うん。すげえ綺麗だろ?」
「……ああ」
兄貴はそれこそ無表情だが、星に見蕩れていることは充分にわかった。可愛いなあ兄貴は。
「あれが夏の大三角。デネブ、アルタイル、ベガだよ」
「ほう……」
ひときわ輝く三つの星を指差して、それが夏の大三角だということを教える。兄貴は
興味を示してくれたので、簡単に星座について教えると、「面白いな」と頷いてみせた。 そこからはしばしの無言。お互い黙って静かに星を見つめる。どれだけ見ても飽きない、その輝きに思わず手を伸ばしてみたくなる。
「なあ、兄貴」
「なんだ」
「死んだら星になるっていう言い伝えもあるんだよ」
「そうなのか」
本当かどうかはわかんないけど。兄貴は無神論者で現実主義者で死後の世界なんか一切信じちゃいないけど、どういうわけかこの迷信を否定はしなかった。
「星になってもずっと一緒がいいね」
「何言ってやがる」
そう吐き捨て、兄貴は「もう寝るぞ」と窓を閉めた。力なく返事し、お互い見つめ合う。俺が我慢できずに笑うと、兄貴は眉間に皺を寄せてどういう了見だ、と仏頂面になり舌打ちをした。
「エレン」
「なに」
「目瞑れ」
肩を掴まれ、俺よりも小さい兄貴が下から俺を引き寄せ口付けをする。優しいそれはいつもより長かった。
「好きだよ兄貴」
「…………星」
「え?」
「今度は天体望遠鏡持って、山に行って見るぞ」
「……了解」
夜更しもたまにはいいもんだ。心からそう思った夜だった。