俺は今檻の中に居る。ちなみに隠喩でも揶揄でもなくれっきとした事実だ。俺は刑務所の暗くて寒々しい独房の中に、文字通り一人で体育座りをしている。そんな俺の背中を見兼ねて刑務官は労わるように、なんで刑務所なんかに入れられているのかと問う。珍しいのだろう、金にも職にも住む場所にも困ってなさそうな若い男が檻の中に居る事など。俺は問いに爽やかな胡散臭い笑顔でこう答える、「ひとりの女性を愛しすぎてしまったのです」と。

まだ、あの柔らかい感触が生々しく残っている。彼女を抱いた腕にも、彼女とキスした唇にも、彼女の喉を潰したこの両手にも、彼女がつけた見えない痕が鮮明に。その感触を忘れないように、一生この冷たい温もりに縛られながら俺は世界の暗がりを闊歩するのだ。


110122
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