好きな夢を見る | ナノ


  足掻いてもがいて


「はあ」
「ハルカちゃん溜息? 珍しいね」
「すみません、お客様の前で!」
「いいよいいよ」
 朝一のマンタさんタイム。毎日来てくださってるお客様になんて態度だ。
「悩み事?」
「上手に喋れない人がいて」
「珍しい。人見知りしないタイプなのに」
「ははは、そうなんですよねー。パーソナルスペース紙だって言われてるんですけどなんかうまくいかなくて」
「っと、もうこんな時間か。またね」
「はい、また」
 カランカランと音がなってマンタさんは出ていく。少し来ておばさんが入って来た。
「ハルカちゃんだけなのよね、そのマンタって人に会ったことあるの」
「おばさんの時から常連さんなのかと思ってました」
「私はあったことないわね」
 マンタさんに出した食器を片付けてながら、不思議だなあと思う。そういえばいつも朝私が一人のタイミングしかいない気もする。
「ふあーあ、ミルクちょーだい」
「ユーリ! あんたまた懲りずに朝に帰って来て」
「昨日は騎士様と遊んでただけだよ」
「騎士と遊ぶってあんたまた牢屋にいたんじゃ」
「はいはい、ハルカ、ミルク」
「……おばさんに、心配かけないでよ」
 ミルクを渡すとサンキュといってそれを飲み干す。夜に帰ってこないのは騎士に捕まってる日もあるみたいだと今日初めて知った。いつもいつも見知らぬ女を取っ替え引っ替えしてるもんだと思っていたから少しだけ評価を変える。
「んじゃ昼に起こしてくれ。牢屋のベッドは痛くてね」
 ラピードと呼んで二階に上がる。ラピードはもうだいぶ大きくてユーリにも抱っこができないサイズになっていた。
 

「トマトとパンとレタスとタマゴ。今日はサンドイッチを特別メニューにしよう」
 買い物リストに追加する商品を考えながら店に向かう。途中で話しかけてくれる人とは笑顔で挨拶。路地裏の方は見ないように注意する。下町で生きるために必要なことだった。できるだけ大きな道でみんなが見てくれるところ以外私が通ることはない。残念ながらトリップしても私は私のままで特殊能力なんてものは持っていなかった。ワンチャン回復術使えないかなとか思ったけどそんなことはなかった。だから多分私はユーリたちと旅はできない。ユーリがいなくなる前になんとかしなきゃ! と思いつつも現状会話はできてない。

「ッッッ」
「静かに、騒がないで…そう、おやすみ」

 考え事をしていたからじゃない。注意も散漫していた覚えはない。でも、私は知らない人に後ろから何か嗅がされてそれで意識を失った。











「おはよ、ハルカちゃん」
「マンタ、さん」
 最悪の状況である。バカでもわかるこれは誘拐みたいなもんだ。手は後ろに頑丈に縛りつけられている。
「最近、男と寝てるでしょ」
「なんの、話ですか」
「とぼけないで調べはついてる。そいつと何回くらい寝た? 気持ちよかった? まだ若いでしょあの男。 女たくさん抱いてるらしいしハルカちゃん一人を相手してるわけじゃないんだよ。彼」
 あ、だめだ。これ話通じないタイプの変質者だ。冷静に頭で分析する。まずここはどこだ、相手は何人。何が目的。一つずつしっかりと考えながら言葉を選ぶ。
「マンタさんは、常連さんで優しくしてくれる人ですよね?」
「この街にね、少し悪いことをしに来たんだ。そしたらたまたま君が買い物しているところを見つけて。運命を感じたんだ。可愛くて小さくて可愛い。そんな君が朝入れてくれたミルクは本当に美味しくて、君の身体からどんなミルクが出るんだろうと興奮して何度抱いたか」
 えっ気持ち悪い本気で気持ち悪いえっきもいきもいきもいきもいなにこの変質者東京だったら全部報道されるし、気持ち悪い気持ち悪すぎない!? え、こわ。変質者って話通じないって知ってたけど怖すぎて怖い。
「でも、君は最近あの男が好きで仕方ないんだろう。それは困るんだ。君は僕のなのに」
 いつからあんたのものになったんだ!? ユーリのものにもなってねえしな! と思いながらもちろんなにもできない。足は自由だけど手がだめ。窓から見える景色的には二階くらいだろう。見える道が細いからおそらく裏道。じゃあ叫んでもあまり意味はなさそう。周りに武器になりそうなものは見当たらない。これは詰み。
「マンタさんは勘違いしてませんか?」
「なにをだい?」
「ユーリとはなんにもない」
「呼び捨てにした、今、呼び捨てにした」
「マンタさんは私よりも随分と年上ですから」
「じゃあ、君のその綺麗な声で僕の名前を呼んで、ほら、早く」
 いやいやいやいやいや!? 無理無理無理鼻息荒い気持ち悪い怖い怖い怖すぎて無理。ゲボ吐きそう。朝ごはんなに食べたっけと考えても意味ない。どうする、どうする。
「なんで呼ばないんだ!!!」
 大きな声と机を蹴っ飛ばす男。がシャンと勢いよくなる。
 こわ、こわ、突然キレた。まじでやばいよ。おばさんと会ったことないこととかで不思議に思わなかった私の落ち度だと思うとでも思ったか!? 14歳にハアハアしてるこの男がどう考えても悪いだろ。
「あの、私宿屋に帰りたいんですけど」
「なーーーにいってるの? ここで僕と二人で暮らすんだよ」
 ここってこんな薄気味悪いとこに? 女囲うならせめて立派な部屋用意しろよ。
「でも、おばさんが心配して探しちゃいますよ? 見つかったら困らないんですか?」
「見つからない見つからないよ。ここは僕が周りに誰もいないこと確認してギルドの人たちから買い取った場所なんだ。こんな裏道も裏道のところ普通の人は来ない。治安悪いもんね」
「治安悪いところで生きていけるんですか?」
「大丈夫。大丈夫だよ。大丈夫僕がいるから」
 いや、頭のネジ五、六本落として来てるな間違いない。あてにならないその自信に頭が痛くなる。ギルドの人たちが出入りしていた道ってことは坂の裏のところかな、だいたい。あの辺は普通の人は通らないけど、でも。
「このあたりよく来るんですか?」
「君と初めてこの部屋に来たくてね。どうだい? 一緒に初体験」
「そう。わかりました」
 ここは本当に危険な場所で、よくギルドの人が通る。でも今日はきっと誰もいない。なぜなら
「誰かーーーー騎士様ーー!!!助けてください!!!!!怖い人に襲われそうですっ! 誰かーー!」
 この辺り全域に聞こえるくらい大きな声を出す。今日は騎士の巡回日だ。そんなことも知らない人に私が負けるわけない。
「なにを大きな声を出しているんだい。ほら、静かに。誰も来ないんだから」
「来ないで」
「かわいいな、かわいい。そうやってどうしようもないのに暴れるところも全部可愛い」
 ほら、となぜか抱き込まれそうになるところを自由な足で振り払う。大丈夫騎士はポンコツばかりじゃない。走って逃げよう。手が縛られて動きにくいが気にしない。部屋を出て階段を探す。その間も大きな声は出し続ける。早く、誰でもいいから早く。階段を駆け下りる。毎朝こちとら足腰鍛えてんだわと逃げる。
「ハルカちゃん、逃げても仕方ないのに痛いことはだめだよ。ゆっくり教えてあげるね」
 キモキモキモキモキモキモい死ねっと口にしながら逃げる一階はカギが閉められているようだ。
「ほら、おいで」
「行きません」
「なんで来ないんだよ!」
 ガンッと音がして覆い被される。離してと叫んだってどくわけがない。大丈夫、服が破かれるくらいならどうってことない。騎士だって向かって来てくれてる。大丈夫、痛くない怖くない、助けは来る。……ホントに? 
 騎士の巡回時間まで知ってるわけじゃない。私の声は広く響く声だっただろうか。さっきまで自信たっぷりで気が張っていたのに、不安に一度思ったら泣きそうになる。なんでこんな気持ち悪いやつに襲われなきゃいけないんだ。なんでいまこんなやつに肌を舐められているんだ。気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。助けて、助けてと声を出す。
「ハルカちゃん、俺の名前以外は呼ばないで」
 ニコッと笑われて行為が続けられるやだよやだよやだやだ、助けて助けて助けて助けて
「助けて! ユーリッ」
 一番助けてほしい大好きな人の名前を呼ぶ。騎士に見つけてもらうはずなのにとっさに出た名前がユーリで笑いが出てしまう。
「その名を呼ぶな」 
 逆鱗に触れてしまったようで激情した彼に頬を殴られる。女の顔殴るなんて最低だと睨み返すとかわいい顔だねと笑われる。ああ、嫌になる。
 

 再開されそうになった行為が大きな音とともに止められる。


「大丈夫か!」
 騎士の鎧に包まれたその人は、金髪の王子様みたいな人で、青い瞳が綺麗だった。

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