好きな夢を見る | ナノ


  フラフラしている彼は


 わざわざ洗って干したフレンの布団で私が寝たというのにユーリは帰ってこなかった。
 最初こそフレンの布団に将来の騎士団長様の使用済み布団だ! とテンションを上げたが朝起きて、隣のベッドが空なのを見れば悲しくなる。子供じゃないから何があったか分かる。
 ラピードが寂しいだろうから面倒見ろって、ユーリだって寂しいから帰ってきて早々何処かに消えてそういうことをしているんだ。寂しさを埋めるためにどこかの知らない年上の女抱いてるってことだ。
 なんで、私がこの世界にいるのにユーリは別の女を抱いているんだ。寂しいバカ嫌い、嘘好き。といろんな感情が巻き起こる。
 テルカに来たからってユーリに愛されるわけじゃない。そんなのわかってる。可愛さもなければ優しさもない、特殊能力も持ってない私はユーリに愛される要素なんてない。でも、私が見てきたトリップした女の子たちはみんな好きなキャラクターに愛されてその人と未来永劫結ばれていた。私は、きっとそうはなれないんだ……

 ブンブンと首を横に振る。ダメよ、ダメ。自分で可能性を消すな。まだ出会って二日。ユーリが旅に出るまで時間はある。ユーリが外の世界を知る前に、なんとか落としてゲットしよう。強く意気込んで私は今日も階段を駆け下りた。



「おばさん」
「ん?」
「ユーリさんっていくつ? 私よりは年上だと思うけど」
 まずはユーリが出て行くまでにどのくらいあるかの調査だ。21歳のユーリローウェルは旅の途中で22歳になったのだから今の年齢がわかれば、どのくらい猶予があるかはわかる。
「ユーリは今年18になったばかりよ」
「18か」
 四つ差。18って言ったら男子高校生だ。
 男子高校生が年上食い漁ってるってなるとすごくリアリティが増してしまって嫌になる。それにしても、18であの色気ってなんだどういうことだ、頭バカになる。21歳になったらエロエロ魔神にでもなるつもりか。

「昨日、ユーリさん帰ってこなくて」
「あー、そう。なんて教育に悪い男なのかしらね」
「それはいいの。なんとなくわかるし」
 私がそう言うとおばさんは、すごく悲しそうな顔をする。そんな顔をさせたかったわけではないのですぐに他の話にする。
「ユーリさんは、なんで騎士団やめちゃったんです?」
「ユーリには合わなかったんだろうね」
「なんだー? 俺のいないとこで噂話か?」
 ドアの開く音と不機嫌そうなユーリの声。女抱いて来ましたって顔しながらズカズカと入ってくるユーリにぷんっとしたくなる。
「朝帰りなんて子供に悪影響でしょ」
「子供って、んな年じゃねえだろ」
「14歳の女の子に何言ってんの」
「二個くらいしか変わんねえのかと思った」
「二個しか変わらなくても教育に悪いでしょ」
「へいへい。昼にまた起こしてくれ。布団は手伝うから」
 ヒラヒラと手を振って二階に上がっていくユーリ。なんだあれ。
「ごめんね」
「なんでおばさんが謝るんですか! 大丈夫ですよ! 大人の世界わかります」
「そうよね。ユーリもハルカちゃんも本当はまだ子供なのに早く大人にならなきゃいけない環境で」
 しょんぼりと話すおばさんにそういうことが言いたかったんじゃないと慌てる。なにか良いこと言えと口を開く。
「下町の人、大好きですよ!」 
「え」
「私のこと迎えてくれて、家族みたいに接してくれて! 治安はあんまり良い方じゃないけど優しくしてくれる人多いし、路地裏の人たちもなんだかんだって悪い人じゃないよ、だから」
「……ありがと」
 よしよしと撫でられて抱きしめられる。みんながみんないい人じゃないし日本なんかと比べ物にならないくらい犯罪が多い。私だって路地裏に入ったらどうなるかわからない。それでも、みんなで助け合って生きてるこの街が好きで、それを一生懸命伝えたかった。





 ユーリが私と同じ部屋で寝るのは三日に一度くらいだった。フラフラと居なくなってフラフラと帰ってくる。それでも昼間は布団を干してくれるので律儀だなと思う。初日のようなことはもうなくて、私はフレンの布団で寝てユーリは自分のベッドで寝る。おはよ、くらいの短い言葉しか私たちの間にはなかった。



「ラピード、ちょっとおっきくなった?」
「ワフッ!」
 前は私が抱え上げれたラピードが重くて持ち上がらない。変わらず子犬に見えるというのにしっかり成長している。
「おにく、食べてみる?」
 ゲームじゃラピードはなんでも食べてたし、子犬じゃないならもうお肉とか食べれるかなって冷蔵庫に入っているのを少しだけ取ってみる。初めて食べるものに興味津々のようでよく見てよく匂いを嗅いでそれでちょっとだけ舐める。大丈夫だと判断したのか今度はかじりついた。
「よしよし、偉いねーラピードは。飼い主はフラフラして面倒も見てくれないもんね」
 偉い偉いと撫で回すとラピードが食べるのをやめて吠え始めた。
「わるかったな」
「ワフッ!」
 いるとは思わず、ほんの少しだけ驚く。
 ユーリがいるのが嬉しいのか、ラピードはユーリの足の周りにくっつく。それを「ほんとだ。でっかくなったなラピード」と優しい顔をして撫でる。あっその顔好き。と思って目をそらした。


「あんた、なんでここに住んでるの?」
 そういうことおばさんが言ってくれてると思ったのに突然の質問。あ、やば、今、目が合ってしまったとそらす。
「家がないので、お世話になってます」
「ふーん。目、見て話さないのは? お客さんとはよくやってるって聞くし街のみんなも明るくて元気だって言ってたけど俺にはそんな風に見えねえ」
 顔がよくて緊張して好きすぎて素直におしゃべりできません! なんてもちろん言えるわけもなく。ぐるぐると言い訳を考える。
「緊張しい、なので」
「……ふーん」
 いや、なんでその言い訳で通じるって私は思ったのか謎だけどユーリはもう興味がないのかラピードと一緒に部屋を出て行った。
 あんまりにも心臓に悪い。私だって出来るんだったら「ユーリ! 好き!」くらいの軽いノリでお話ししたいし「よっ、今日もかっこいい!」なんてテンションで話したい。
 それでも、10年間の片思いは随分と重たいもののようだ。上手に話せない自分が嫌だと思う夜だった。

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