好きな夢を見る | ナノ


  心あらずなキミは


 宿屋の朝は早い。チュンチュンと小鳥がなく前に起きなきゃいけない。普段は寒くなって起きるんだけど今日はあったかいなと目を開ける。
「へ!? あ!?」
 おぎゃあと叫ぶ声は大きな手で塞がれる。
「朝からうるさい」
「えっエッアッ」
「ここ俺のベッド」
「はっ、フレ」
「いや、いつのかわからないの寝れねえだろ」
「アッエッ!?へっ」
「なに?」
 寝起きの擦れた声があまりにもエッチでびっくりしすぎた私はユーリを思い切り蹴飛ばしてしまった。
「いってえ……」
 ぽりぽりと頭を書いてふあーとあくびをするユーリにびっくりする。いやいやいやいやいや、おかしいだろおかしいでしょおかしいよな!? ユーリのベッドはシングルサイズで私は163センチの14歳。ユーリは21歳よりは下だろうけど180センチは普通にある感じに見える。その二人が一つのベッドを使うのおかしいだろおかしいでしょ!? おかしいよな!? そんな、いつかはユーリと……! なんて思わなかったわけじゃないけど初日からは望んでないしエッチすぎるけしからん。しかもなんかあんまよく覚えてないけどあったかいなって思ったからぎゅうぎゅうしがみついてた気もする。よくない良くないよくない! お付き合いをする前にそういうのは本当に良くない。エッでもカッコいい、じゃない! あわあわする私を置いてユーリはまたベッドに転がる。なんだなんだなんだこの男、なんでこんなマイペースなんだ!? なんなんだ! と心でキレ散らかしながらも、宿屋の朝は早いんだったと階段を駆け下りた。
 


 着替えて歯磨きして身だしなみチェック。お客様の朝ごはんの準備をしながら開店準備。おばさんが来るのは30分後。お店の鍵を開けて待っているとカランカランと先にお客さんが入ってきた。ほうき星はいつだってお客様を迎える。
「いらっしゃいませ」
「おはよ、ハルカちゃん」
「おはようございます」
 マンタさんは常連様だ。朝の早い仕事をしている彼はおばさんが来る前にご飯を食べて仕事に向かう。彼の好きなトーストと目玉焼きとベーコンのセットを準備する。
「朝からハルカちゃんの笑顔が見れて大満足だな」
「またまた、そんなこと言ったって何にも出ませんよ。ミルクとコーヒーどっちにしますか?」
「今日もミルクで」
 
 それからしばらく談笑をしてマンタさんは仕事に向かう。



 少し経っておばさんが店に入る。
「おはよう、ハルカちゃん」
「おはようございます!」
「ユーリは?」
 ギュンッと名前だけで心臓が痛くなる。
「まだ寝てました」
「ハルカちゃんが働いてるっていうのに。お客さんまだいないし、ちょっと起こしてきてくれる?」
「私がですか!?」
「ええ」
「うっ、はい」
 ニッコリとおばさんに言われたら行かないわけにはいかない。
 せっかく逃げてきたのにまた行くのか。というか蹴っ飛ばした女ってどうなんだ。せっかく好きな人に会えたのになんであんなことしちゃったんだと頭が痛くなる。
 ううううと悶えながらユーリの部屋をあける。まだ寝ているようでベッドから動く様子はない。壁の方を向いているので綺麗な髪がベットに流れている。
 ほあ、本当に綺麗。起こす前に、ちょっとだけ触っちゃおうかなと好奇心。綺麗で長くて指触りもいいユーリの髪。私は地毛が茶色いから羨ましい。真っ黒な髪に憧れる。
「なに?」
「ッッ」
 ゴロンとこちらを向くユーリに息がつまる。エッ起きてたんすか、言ってよ! とかいろんなこと思いつつ今の私変態じゃないかと絶望する。
「おばさんが起こしてって」  
 また下を向いてユーリに声をかける。
「んー、眠い」
「でも、」
「一緒に寝る? 昨日みたいに」
「ッッッあれは、ユーリさんが!」
 顔を見上げてまた下ろす。顔がいいおがいい顔がいい無理無理話せねえよ。なんでこんな軽い男なの好きッ騙されたいッて変なことばかり思ってしまう。
「とにかく、起きてくださいね。おばさん待ってますから」
 ぷいっと後ろを向いて部屋を出る。いや、こんなユーリとあってまだ24時間も経ってないのにこんなに好きで好きで仕方なくて私大丈夫かな、と心配な朝だった。




 だらーとしているユーリにシャンとしなさい! とおばさんが怒るのは今日で何度目だろうか。お客さんが利用した後の布団を洗って干すのがこの仕事で一番大変なのだがそれは全部ユーリがしてくれた。ついでにフレンの布団もユーリが洗ってくれて助かった。
「ラピード、これからおっきくなってユーリのこと守ってね」
 キセルを咥えてカッコよくなったラピードを撫で回す。ミルクを小さな舌で飲んでいるのは大変可愛かった。ヨシヨシなんて撫で回せば「キャンッ」と可愛く鳴く。ちっこいラピードももう一ヶ月もしたらおっきくなるのかなってワクワクした。
「ラピード懐いてんの?」
「ッ」
 私が返事できないでいるとラピードが吠えて返事をする。
「ハルカ?」
「ミルク飲ませた、から」
 名前呼ばれた名前呼ばれた名前呼ばれた。声だけで頭おかしくなる。とりあえず顔が見えないので返事をしておく。ミルクを上手に全部飲んだラピードを偉いねって撫で回しているとユーリになぜか頭を撫でられてしまう。

「サンキュ、ラピード寂しいだろうから面倒見てやってくれ」

「へ」
 ポンポンとされて振り返るとユーリは店から出て行くところだった。手大っきかった。凄いおっきくて、なんか撫でられた。エッウッバッ。


「ラピード……あんたの飼い主ほんとかっこいいね」
 ぎゅうって抱きしめるとキャンッとラピードが吠えた。




 その夜、ユーリは帰ってこなかった。



prev / next

TOP
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -