好きな夢を見る | ナノ


  ユーリ・ローウェル


「ハルカちゃんは今日も元気だな」
「へへ、元気だけが取り柄ですから! 食器置いてて大丈夫ですよ! 私片付けますから」
「そうかい。また来るね!」
「ありがとうございます!」
 ユーリ早く騎士団やめないかなと思いながら働く毎日。嬉しいことに私の身体は十四歳と若返った。二十四歳の私の身体はボロボロで視力も落ちてたし何より身体にガタがきていた。食べたら食べた分だけ太って痩せにくい。そのせいでお腹だってちょっとぽっこりしてた。でも十四歳の私は毎日キビキビ仕事をしたって元気だし、好きなものを食べたって全然大丈夫。まあ、せっかくそこそこあった胸にあった肉が減ってしまったのは残念だが。まあ、それでも同年代よりはあるだろう。
「ハルカちゃん、ランチに向けてタマゴを買ってきてもらっていいかい?」
「任せて! ついでにコムギコも減ってたよね、買って来るよ」
「コムギコは重いからいいわよ。あとで若い男に頼むから」
「大丈夫! 行ってくるねおばさん」
 400ガルド握りしめて買い物に行く。ゲームのマップで見えていた範囲よりもずっとずっとザーフィアスは大きな街だ。ここが私の生きる場所になって、もう半年が経つ。下町の住民の多くは私のことを覚えてくれて声をかけてくれて優しい。最初はユーリに会うため! 何て意気込んだけど、もうそれだけじゃない。この世界で生きていきたい、そう強く思った。

「ううう、コムギコもうひと回りちっこいのにした方が良かったか?」
 坂の上にある小さなお店やさん。そこが私たち下町の住民にも販売してくれるお店だった。貴族街と下町とお城の中は本当に別世界でゲームをしていた時には感じなかったことだ。差別は激しく、私たちが貴族街に入ることなんて考えられなかった。騎士も意地悪な人ばっかりだ。デコボココンビもゲームをしているときは優しくていい人たちだなって思ったけれど実際は税の取り立てに来たりもする。でも根っこが優しいからですよねーなんて感じで帰って行く。
「いや、それにしたって重っ」
 こんな小さな女の子が(163センチあるので小さいかはわからない)重たい荷物を持っていたって誰も声をかけてくれない。早く下町に入って誰かに手伝ってもらおう、と私はゆっくりと坂を下っていた。ら、前からイケメンがきた。イケメンっていや、もうそれはもうびっくりするくらいイケメンでどのくらいイケメンって私が十年くらい思い続けるくらいのイケメンでえ!? え!? 何でこっちにくんの。いま汗かいてるし、重いし、いつの間に下町に帰ってきたのと混乱が止まらない。とりあえず今は会うのまずい、顔だって重いって顔しておそらくブスだ。あとで一旦おふろ入ってから会おう。無視しようと下を向く。
「あんたがハルカ?」
 何も知らないように隣を通ろうとすると声をかけられた。エッ好きッカッコいい声だッなんだえっちだな。と心の中は大混乱している。自分の名前呼ばれた、ユーリに、呼ばれた!
「は、はい?」
「おばさんに、おっきな荷物抱えてる女の子手伝って来いって言われた」
「あっ、えっと、」
 ありがとうございますって返事をしようと顔を見上げたらびっくりするくらいカッコよくて、エッ近ッいい匂いする胸元けしからんな声かっこいい!? って大混乱して目をそらしてしまった。思ってることが何も口に出ないしコムギコは重たい。
「俺ユーリ。おばさんから名前聞いたことない?」
 知ってる!会いたかった!あなたに会うために死んでここに来た! ってたくさん心の中では喋ってるのに実際は混乱して何も声が出ない。好きな人が目の前に現れると素直におしゃべりできない系女子だったのか私と二十四年間生きてて気づかなかったことに気づく。
「ハルカです、おばさんから聞いてます。コムギコは持てます」
 ぼそぼそと目も合わせず喋ってしまって嫌になる。どんなクソ態度だよ。私がこの世で嫌いなものの一つに含まれるコミュ障人間に自分が成り下がってしまって嫌になる。
「そーか? でもま、ここまで来たし甘えてくれや」
 私の持っていたコムギコをあっさりと奪う。その時に髪がもうこれは綺麗に舞っていい匂いがして胸元近くて頭がボアボアした。
 無理していたのは間違い無くてコムギコがなくなって楽になる。
「これ、重いな。よく持とうと思ったな」
「うっ、ありがとうございます。キャパオーバーでした」
 ん、と短く返事して一緒に坂を下りる。重いって言ったのに肩にひょいって乗せてる感じユーリはどうってことないのだろう。
 ユーリって今幾つなんだと後ろを歩きながら思う。劇場版って結局なん年前って設定なかったし。何ならパラレル? みたいな見解もあったからな。それでもユーリの左手についている魔導器はナイレン隊長のものだろうしユーリはきっと今……といろいろ考えてしまう。
「なんだ? ユーリ帰って来とんのか」
「ハンクスじいさん」
「帰ってきとんのに何挨拶せずにふらふらと」
「フラフラしてねえだろ! おばさんとこ行ったらこいつの手伝いしろって」
 親指で私のことを指すユーリ。あっもう名前読んでくんないのと少しだけ寂しくなる。いや少しじゃないな、だいぶ寂しい。
「なんじゃ、ハルカそんな後ろに隠れて」
「へへ、気にしないでハンクスさん。手伝ってもらってるの。だから怒んないで」
 持ってるタマゴを見せてユーリのコムギコも指す。
「あとでわしの家に来るんじゃぞユーリ」
「あいあい、わーってるよ」
 メンドくせってダダ漏れで返事するユーリを後ろから見て笑ってしまう。こういうとこまだまだ子供っぽいな。それから道行く人が何人もユーリに声をかけててユーリは人気者だって嬉しくなる。かっこよくて優しくて人望も厚い。ゲームで見るよりもずっと人間らしいユーリに私はまた好きを募らせるのだった。

「ハルカちゃん、今日からどうすんだい?」
「ん?」
 夜。頑張って買ってきたタマゴとコムギコで料理してるとダイクさんに話しかけられる。
「ユーリ帰ってきたら、ハルカちゃんの部屋どうすんのかなって」
「エッ」
「あれ? ユーリの部屋今使ってんだろ?」
「えっ、あっ、え、そうか、そうだな、そういえばそうだな!?」
 なーんにも違和感なく寝泊まりしていたがそうだ。ゲームでも普通に回復回復! ってユーリの部屋を何度も使っていたから違和感なかったが私半年間もユーリの部屋に寝泊まりしていたんだ。何でかわからないけどすごく忘れていたし、こんなんならもっとユーリの部屋だって興奮して毎日寝ればよかったと意味のわからない思考になる。
「ユーリと同じ部屋はまずいだろ。うち来ないか?」
「ほあ、そうか。そういうのも考えなきゃいけないのか」
「なーに言ってんの! ダイク! ハルカちゃんも何真剣に考えてんのよ」
「へ」
「なんだおばさんいたのか」
「いたわよ。うちの可愛いハルカちゃんにそういうのは禁止よ」
「俺は好意で……ってなんもねえよ」
ちえって言うダイクさんをみて、あれ、もしかして私危ない目に?合う感じだったのか? とびっくりする。いやいや、十四歳の私の身体にそんなことしてもと思うが世の中にはロリコンというのもあるらしいのでダイクさんを警戒対象リストに入れる。
「でもおばさん、私どうしよ」
「昔フレンが使ってた布団あったかしらね」
「エッ!? 同じ部屋!? それはまずいよ」
「だーいじょうぶよ、ユーリはこのおっさんと違ってハルカちゃんに嫌なことするような男じゃないわ」
「いやいや」
「それにあの子年上好きだしね」
 バチコンと音がなるウインクを受けて悲しくなる。そういえばユーリ年上好きだったな。なんか女遊びとかしてた感じだった。悲しい、すごーく悲しい。悲しすぎて悲しい。こんなんなら二十四歳の私でこっちにトリップすればよかったと泣きそうになる。

 夜、おばさんと一緒に昔使っていたフレンの布団を出す。将来騎士団長になる男の寝具なんて貴重品だぞ? と思いながら準備する。
「急だったからね、この布団明日洗うから今日はユーリのベッドをハルカちゃんが使いな」
「エッでも、この部屋本当はユーリさんのなんですよね」
「いいっいいって、どうせ今日だってハンクスさんとなんか話して帰って来るの遅いだろうし」
「明日からはちゃんと私が下で寝ます」
「ふふ、そこは二人に任せるわ。じゃあ戸締りと」
「電気!」
「ええ、よろしくね。何かあったら隣の家まで」
「聞こえるくらい大きい声で叫ぶ!」
「よくできました。おやすみ、ハルカちゃん」
「お休みなさい、おばさん」
 フレンの布団もいいなあと思ったけれど流石に最後にいつ使ったかわからない布団に寝れるほどの人間ではない。ユーリの布団、ユーリのベッド、ユーリの部屋。ずっとそうだったのに気づいてしまってから、重要度が増してしまう。エッ私この部屋で寝泊まりしていいのッと今までの日常が特別なように感じる。それでも一日中動き回っていたんだから眠気は来るわけでふあーとあくびしながら私はユーリのベッドに転がるのだった。

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