05
夜が更け、皆が寝静まった頃に私は自分の部屋を出た。
社長がどこにいるかとかそんなことは検討がつかないので適当にふらふらしていた。
この島はいいところだなー。海の音がどこにいても聞こえるし、ちょっと歩いたら森もあるし。都心にいたらこんなに自然に囲まれることなんてないからインスピレーションを刺激される。今のうちにいろいろメモしておこう。これからの仕事の役にも立つし。
そういえばQUARTET NIGHTのみんなの音録りはどうなったのかな。昼に携帯閉じてから携帯を見ていない。
携帯を開くと何通かメールが来ていた。一番新しいメールを開くとちょうど音録りが終わったという連絡が来ていた。今ならまだ四人でいるかもしれないと思い、嶺二に電話をかけた。


「もしもし、天音ちゃん?」
「あ、もしもし、今忙しい?」
「ううん、ちょうど今終わって、さっきアイアイが天音ちゃんに音源送ったところー」
「そっか、お疲れ様。皆にもお疲れ様って言ってほしいなー」
「皆ー天音ちゃんがお疲れ様ーだってさー」


皆本当にすごいな。私がいない間にしてほしいこと全部してくれて、私の力が及ばないところなんて、たくさんあるのにいつもわたしのことを気にかけてくれて、私の期待以上のことをしてくれて。本当に感謝している。


「天音ちゃん今どこにいるの?」
「なんかね、南の島に来てるの。すごくいいところだよ。今度皆で来れたらいいなー。自然に囲まれてるからインスピレーションすっごく刺激されるし」
「そっかー、じゃあ、今度皆で行こうねー」
「うん。あ、ちょうど今、海の近くにいるんだ、波の音聞く?」
「あ、聞きたい、ちょっと待ってね」


嶺二はハンズフリーにして、みんなにも聞こえるようにしたみたいだ。さっきまで遠かったみんなの声がよく聞こえるようになった。


「聞こえる?」


スピーカーに波の音を近づけてみる。夜の海は、昼のようにきらきらしているわけじゃない。とても暗くて黒くて、少し怖い。でも、聞こえる音は昼と変わらない。でも、夜のほうが気温が下がるから音は昼よりもよく響く。目を閉じて音だけ聞こえる世界も、目を開いて想像した世界じゃないこの世界も、きらきらしている。五感すべてを刺激されるとそれなりにいろいろなことを思うみたいだ。


「聞こえるよ。いいね、波の音」
「でしょ?」
「今度は皆で行こうって天音ちゃんが」
「へえ、それは楽しみだね」
「でしょ?」
「仕事なら、行かないこともない」
「もうーミューちゃんも行きたいなら行きたいって正直に言えばいいのにー」
「あはは、早くみんなに会いたいし、早く曲を聴きたいな」


学園で過ごしている間も心の底から毎日が楽しい。新しい世界に触れていろいろなことに出会って。でも、やっぱり私のいるべき場所はみんなの傍だし、ファンのみんなの前だなって思うようになった。むしろ、それに気づけたといってもいい。早くみんなに会いたい。


「一緒にいい曲作ろうな、天音」
「うん。ありがとう蘭丸」
「ちょっと、ランランなにいいところ持っていこうとしてるの!五人みんなでいいもの作るんだよ!?」
「嶺二わかってるって。また、完成版聞いたら連絡するね、今日はお疲れ様。ゆっくり休んでね」
「うん、天音もゆっくり休むんだよ」
「ありがとう、藍。みんな、お休み」


私は電話を切った。すると後ろから声をかけられた。


「人目に付く場所で仕事の話はやめたほうがいいぞ」
「龍也」
「何かを決めた顔をしているな」


私の顔を見て龍也はすべてを察したかのように言う。


「社長がなんで私にここに通えって言ったのか少しだけど、わかった気がするんだ。」
「そうか。」
「あと半年の間、ちゃんと学校も通って仕事もしっかりするね」
「両立は大変だろうが、あんまり無理は」
「してないよ。ありがとね、龍也。」


私のことをいつもちゃんと見てくれて、心配してくれて、本当に感謝してもしきれない。


「あ、あと、ペアの件なんだけど私ってどうすればいいの」
「お前はどうしたい」
「そりゃ、できるなら、友達とペアを組んで出たいとは思うけど」
「その場合、そのペアの相手のデビューは無くなることになるとわかっていながらか?」
「やっぱり、そうなるよね」


なんとなく予想はできていたんだ。翔とペアを組んだらきっと翔の評価は私への評価に変わるって。天音と組んだからこんな作品になったんだと。翔のことを考えるなら、翔は私とペアを組まないほうがいい。


「一応、友達にペア誘われているんだけど、それについてはどうしたらいい?」
「……来栖か。断ればいいだろ」
「断ればって、そんな簡単に言うけど、断るいい理由なんてないよ」
「それは私に任せてくださーい」


「「社長」」


どこからか声が聞こえたかと思うと社長がすぐそこにいた。


「天音さんにはペアを付けないで卒業オーディションに出てもらうことにすればいいデース。バーット対価もなしにそんな異例の措置できませーん」
「そんなこと言ったって私にペアを組むことなんて、できないじゃないですか」
「それは天音さんの個人的な意見デース。別にペアは組んでもいいんですよ?相手がデビューしなくてもいいのなら」
「そんなのかわいそうじゃないですか」
「そう思うのは天音さんデース。私たちは思いまセーン。
誰も無理な課題を挙げるわけではありません。むしろ学園にいるデビューを目指している生徒のためデース」


翔のデビューなんて関係ないように社長に少し腹が立ったが、話くらいは聞こうじゃないか。



「何をすればいいんですか」
「QUARTET NIGHTのみなさんと早乙女学園でパフォーマンスをしてください。そうすることで生徒たちの意欲が上がりマース。それが無事に成功できたら天音さんは卒業試験を特別に一人で出れるようにシマース」
「わかりました。それだけでいいんですね。」
「今以上に忙しくなる。音を上げるなら今しかないぞ」


いつもの社長じゃない、真面目なトーンで聞いてきた。それだけ社長も私の身体を心配してくれているんだ。


「心配しないでください、社長。私を誰だと思っているんですか。」
「では、楽しみにしてマース」


そういって社長はどこかに消えてしまった。


prev next

back to top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -