04



「さあー、瞼を閉じてー、スローリー、ディープぶれっしんぐー」


メトロノームで一定の音を鳴らし、社長はコインを揺らした。
所謂催眠療法というやつだ……。


「スローリー、スローリー、スロースロースローリィイイイー」


翔はゆっくり息を吸った

「気持ちが落ち着いてーあっという間に眠くなりマース。ユーはだんだん眠くなりマース」



本当にこんなことでうまくいくのだろうか。まず社長がこんなことをできるなんて聞いたことはない。





社長はメトロノームの音を止めた


「オーケー、眠りましたカー?」


社長がそういうと翔は動かなくなった。
本当にこんなことが社長にはできるのか……!?


「全然!!こんなんで眠くなるわけねーだろ!冗談じゃねぇよ、たっくふざけるな!大体……」


翔はそのまま眠りについた。




「そーれそれそれ眠りましたー。これからユーの記憶はどんどん過去に戻っていきマース。
ユーは今三歳ー観覧車に乗っていマース。高いとこはちょーこわーいデスカ?」
「こわくねーよ」


すごい、本当にそれっぽい……。


「ユーは今4歳デース。どうですかー?」
「いや、おもしれーよ」


「おーけー、今、ユーは5歳、観覧車はこわいデスカ?」

「ウワアアア!ウワアアア!こえええよおお!!!やめろおおお!!」


先ほどまで何も動かなかった翔がいきなり悲鳴をあげた。


「わっつハップン?」

「だから、何回も追い掛けてくんなって言ってんだろうがああああああああ!!!」









話はこうだ。小さいころに四ノ宮くんが翔を追い掛け、塔から翔が落ちそうになった。それ以来高いところがこわくなったらしい。
その話を聞いただけで私も高いところが恐くなりそうだった。





「なーつきいいい、犯人はおまえかああああ」
「え?
あー、そういえばそんなこともあったようなー」
「じゃなくてあったんだよ!!!」










社長のおかげで翔は無事、高所恐怖症を克服したのであった。あとは翔がオーディションを受けるだけだったのだか、


「え、受けないんですか?」
「なんで?高所恐怖症治ったんでしょ?」
「なんでって、これ見ろよ。ほら、ここ!」


募集の隅に書いてある文字をよく見ると


「今回の募集は主人公の妹役です。」




「って女子かい!!」
「しかも、こんな小さな文字で。」


「はー、日向先生と共演したかったなー」


小さな文字には私も気づかなく、あれだけ頑張っていた翔を知っていたのもあり落ち込んでいる姿には心が傷んだ。


「大丈夫ですよー!翔ちゃん!僕にまかせてください!!」



「まさか!」






四ノ宮くんはふりふりのドレスをどこからか用意し、それを翔に着せた。



「翔ちゃんキュート」
「わー、かわいいです」
「これはこれでアリかも」
「意外に翔はかわいいな」


「いい加減にしろ、おまえら!!」



翔が四ノ宮くんの行為に呆れ、私たちに反論しているとき、たまたま身体を鍛えるために走っている龍也が通りかかった。



「おー、スゲー」


私達の前を通ると、龍也は足を止めた。


「日向先生!?」
「妹役のイメージにピッタリだ。名前は?」


龍也はいつもより声を上げ、翔に名前を聞いた。


「翔ですけど、」
「オーディション受けろよな、翔子ちゃん」


「……翔子、ちゃん、」


翔は龍也の言葉を聞き、膝から崩れ落ちた。


「また、トラウマつくったんじゃね?」
「そうですか?」
「翔くん頑張ってー」











「翔、今回は災難だったなー」
「人事だと思いやがってー!」
「あはは、そんなことねぇよ」


私は翔といつものように話ながら寮へ戻っていた。


「そういや、お前レンと仲良くなったのか?」
「ん?」
「いや、お前が下の名前で呼ぶの俺だけだったから……。
最近レンのこと下の名前で呼んでるし……。つうか、レンとの距離やたらちけーし、見てて、なんつーか……」


……これは一体何展開だ?


「まー、レンとは色々あったけど、俺が1番仲いいのは翔だと思ってるぜ?」
「え?」
「毎日一緒にいれて楽しいし。俺、翔のこと大好きだぜ?」
「だ、大好き!?」
「おう!翔は?」
「……へ?あ、いや、」


翔の顔はなぜか赤くなり吃りだした。



「響のことを、俺は……」


更に顔を赤くしながら目を合わせてくる翔につられて私も顔が熱くなった。




「来栖!響!」
「日向先生!?」



な、なんだ、龍也か。び、びっくりしたー



「じゃあ、俺は先帰る!!」


まだ顔を赤くしていた翔は慌ただしく私から離れていった。




「響」
「は、はい?」
「これ」


龍也から渡されたのは今度遊園地で行われるイベントの詳細だった。


「ありがとう」
「天音」
「ん?」
「あんま、男に近寄るなよ?」
「へ?」





龍也はわけのわからない言葉を残し私から離れていった。





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