ボカロロロ!! | ナノ


▼ カゲロウデイズ

――何度も廻ったあの夏の日
         どうすれば――――



「あーー暑ぃーー」

『暑すぎて溶けるよね〜、暑くてメルトだわ』

「暑いっていうから暑いんだよ?」

『知ってるってー、そういう帝人君は暑くないわけ?』

「はは、僕だって暑いよ」


池袋、日常と非日常が行きかう街。
そんな街の一角で会話を交わす少年少女。
―竜ヶ峰帝人
―紀田正臣
―苗字名前


夏真っ盛りな池袋でいつも通り会話を交わしている。
例年より暑い夏に誰もがやる気を起こさない中、この男が立ち上がった。


「よぉーーし!!暑くてぐだぐだしてても暑いだけだ!!杏里も誘ってナンパに行こう!」

「暑いよ、正臣」

『杏里ちゃん、課題やってそうだよね〜』


正臣の声をシカトし、話を変える二人。


「あ、そういえば苗字さん課題終わった?」

『うんん、まーったくやってませんよーだ』


そんな帝人を察したのか、名前自身も正臣の言葉を無視し帝人の話に乗った。


「あはは...(苦笑)溜めないようにね」

『はーい』


そんな二人の会話に気づいたのか、正臣が口を挟んだ。


「おいおいおい!!俺を置いて二人だけで語り合っちゃってよー、全く酷いもんだぜ」

『あれ〜?ナンパ行ったんじゃないの?』

「行ってねえ!ここにいるってn...」


――バゴォーン


「えっ...?」

「なんだ?喧嘩か?」

『あー、きっと彼奴らだよ』

「「?」」


突如3人の日常に亀裂を入れた音。
だが、池袋にとっては日常過ぎる情景でしかなった。


『あ、標識』

「まさか?;」

「そのまさかのまさかだぜ」

『うん、そのまさかだね』



「臨也ぁぁあぁぁああぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁっ!!!!」


そう叫ばれた声とともに、再び標識が飛んできた。


『っちょ、暑いからって喧嘩ですか...』


((いや、何時でも喧嘩してるからな?/してるよ?;))


ため息を漏らす名前に対し、正臣と帝人が同時に心中で突っ込んだ。
そんな中、第三者の声が池袋の一角に響いた。


「あっはは!そんなもの投げたら、名前に当たっちゃうよー?」


空に澄み渡るように響く声。
その声にその場にいた者が怒りと警戒心を向けた。


「いぃぃいぃいぃざぁあぁぁあぁぁやぁああぁあぁぁぁあっっっ!!!」


特にこの男。
―平和島静雄


彼らは、毎度毎度同じことをやっているが果たして飽きないのだろうか?
少なくとも、この夏真っ盛りの時期に走り回ったら夏バテするのではと、人質に取られた名前は内心そう思っていた。


『君達さ、暑くないわけ?』


「あっはは、俺は暑かったけど名前に会えたおかげで今は暑くないかな♪」


『ふーん。静雄は暑くないの?』


臨也の言葉はどうでもいいと言わんばかりに、右から左へと受け流し目の前で標識を握っている静雄へと話を振る名前。


「あー...まぁ、暑ぃけどよ、そうでもねーぜ?」


曖昧な返事に、きっとその場にいた者ほとんどが「どっちなんだ」と思うような返事を返す静雄。
そんな静雄の返事で、なんとなく和んだ空気もぶち壊す“情報屋(アホ)”も、流石につっかかる気力もないのか、いつも以上に場に溶け込んでいた。


だが、そんな池袋の日常も刻一刻といつもと違う方向性へと転がり始めているのである。


――目も覚めるような夏の日々がこれから始まる。
        廻り回る、街の夏――



8月15日 午後12時30分


―東池袋中央公園


街の天気は今日も快晴。
暑すぎると言っていいほどの暑さ。
病気になりそうな程暑い。

そんな街の中で、1人の少年と少女がベンチに座って喋っている。
紀田正臣と苗字名前だ。

会話は他愛もない話だろう。
正臣は公園に居たのだろうと思われる野良猫を抱きかかえるようにして、名前と話している。
なんとも暑そうな格好だが、暑さなんて気にならないという感じで名前と駄弁りあっている。


『にしても、最近ホント暑いよね〜』

「なー、帝人は学校で杏里は家で勉強かぁー。俺ら...」

『暇人だね』

「暇人だな」

『んーもう、暑い!でも、家で暇するより正臣と駄弁っている方がよっぽどマシかな!』

「俺今、嬉しさと悲しさが同時に来たぜ...。んー、でもやっぱ、夏は嫌いだな」


いつものようにぐだぐだと喋る二人。
鬱陶しそうに正臣が、ふてぶてしく猫を撫でつつ呟く。


「あ、」


猫も暑くなったのか、正臣の腕の間からスルりと抜けるようにして逃げ出した。


『あーあー、逃げちゃった』


隣でくすくす笑う名前を横目に、猫を追いかける正臣。
その後ろを追うようにして名前も正臣の後を追った。





――キィイイイィイィィイッ








次の瞬間、名前の目に入ったのは赤に変わった信号機と正臣を引きずって泣き叫ぶトラック。
そして真っ赤に染まる目の前の世界だった。


―え、え、何。どういうこと???
 なんで、なんで正臣が?嘘でしょ?
 何が起こったの?

動かそうとしても、身体はフリーズして動かない。
目の前には、真っ赤に染まる世界と赤い世界を作り出した正臣。
耳には五月蝿いほど響いてくる、蝉の声。

状況が把握できない名前は、もう一度考える。
数秒前の出来事を。

―え、っと、正臣が猫を追いかけて...それで、信号機が赤に変わって...で、通りを通ったトラックが、が、がが、ま、まさ...正臣を...轢いた...の?

上手く状況の整理はできなかったが、把握はできたらしい。


『...っ!かはっ、』


突然、咳き込む名前。
正臣の血飛沫を浴び、彼の血の匂いが鼻の奥に届き呼吸が整わない彼女を襲ったのだろう。


―う、そだ。こんなの、嘘だ!
 夢なら覚めてしまえ...っ!


心の中で喚き叫ぶ。
今は、思い出したくもない彼奴の顔が浮かび上がり名前の脳裏でこう言った。


“嘘なんかじゃないさ”


と。
ケタケタと嗤いながら。

流石に、これ以上は限界なのか名前は気を失った。
夏の水色をかき回すような、蝉の音に全て眩んだのだ。


8月14日午前12時過ぎ


名前は目を覚ました。


―今、何時?


脳裏に刻みこまれたやけに五月蝿い蝉の音が耳鳴りとなり、いまだ響く中状況整理と共に近くにあった時計で時間を確認する名前。
時計の針は、12時30分過ぎを指していた。


名前は夢で見た事件があった場所に、行ってみることにした。


何の変哲もない、公園。
いつもと変わりない。
公園内のベンチに正臣が座っていて、名前と目が合うと「よっ」と片手を挙げ名前を呼ぶ。
夢で見た情景と全く変わらない。


―でも、なんか不思議だなぁ。


そう思っていると、なんだか夢で見た事が現実になりそうで名前に不安が募る。


『正臣っ、』

「んー?なんだ?」

『今日は、もう帰ろ?』


あの出来事になる前に。
あの夢が現実にならないように。
そう思った一心で、正臣を引っ張る。


「お、おう。わかったっての」


いつもより、変な雰囲気の名前が多少は気になったものの、
「まぁ、こんな時もあるのかな」と正臣は心中で納得し、名前の横を歩く。


―トラックは...いない。よしっ!


公園を出て、道に抜け慎重にトラックを確認する名前。
特に、そのようなものが通るような気配もなかったので名前はホット安堵した。



のもつかの間、周りの人たちが皆、上を見上げ口を開けているのに名前は気づく。


『えっ!?』


確かに、鉄柱のようなものが落ちてきてる。
名前の見間違えなどではない。

昨日の夢を悟った名前はハッと我に返り、正臣の方を向く。




が、それは既に時遅し。
落ちてきた鉄柱が、正臣を貫いて突き刺さっているではないか。


―!?!!?!?


パニックに陥った、名前。
周りの人の劈くような悲鳴と何故か聞こえてきた風鈴の音が公園の木々の隙間でから回った。
夢で見たような、あの感覚で。


―何故!?これは、夢でしょ!!


声にならない名前の声。
ワザとらしい笑みを浮かべた彼奴がまた名前の脳裏でこう言う。


“残念ながら、夢じゃないかな。あっはは”


クツクツと嗤う。

今、名前は世界が眩んで見える。
名前の眩む視界に、正臣の横顔が映る。
それは何故だか...



――笑っているような気がした

眩む世界の中、名前は思う。想う。


―何度も世界が眩んだ。
 その度に、嗤っている彼奴の顔
が私の脳裏に浮かぶ。
 何もかも奪われていった。
 繰り返して、何年?
 いや、何十年か。
 
 そんなこと、もうとっくに気が
付いていたでしょ?
 
 こんなの、よくある話。
 それなら、結末は、
 
 一つだけだろう?―



そして、名前は―――――



バッと正臣を押しのけ飛び込んだ。
その瞬間。
瞬間に、トラックにぶち当たる。


『っ!!あ゛っっかはっ!!』


血飛沫を周りに飛び散らせ、正臣を瞳に映し、軋む体に乱反射する名前。
やはり、いつものように名前の脳裏に現る彼奴。
名前は、もともと彼奴が出てくるのをわかっていたのか、ニヤっとしてこう言って嗤った。


“ざまぁ、みろよ”


と。


池袋の非日常の世界ではよくあること。
そんな、最悪な真夏の非日常が...今ここで終わった。




8月14日

眠りから目を覚ました正臣が、ベットの上でただこう言った。


“また、守ってやれなかった”


と。
猫を抱きながら、そう言った。

End.


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