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マダラへの言伝を頼んでからというもの何やら挙動不審であった柱間に今度は一体何をしでかしてくれるんだと警戒していたが、どうやらそれは杞憂だったようだ。
というのも最近は何やら忙しいらしく珍しく朝から晩まで執務室に籠もっていることが多くなったのだ。
仕事を手伝っている扉間によると重要機密の仕事だそうで彼さえも内容を見ることは許されていないらしい。持ち合わせている知識では暫くは大きな戦争などが起こることはないはずだがどうしたことだろう。

そしてマダラはというと、あの日を境に会っていない。どうやら一族の方で少し動いているらしく頻繁に集会を開いているようだ。異様な雰囲気の彼等を見た扉間はクーデターでも計画しているのではないかと目を光らせていたが、別段探りを入れてくるなどの不審な行動をとるわけでもないために意図が掴めないままだ。

「これをお前はどう見る」
「どうと言われても・・・見ている限りでは心配ないと思うわ。本当に一族内だけのことかもしれないし、こちらから角を立てるようなことはしない方がいいのではないかしら」
「だが奴等が動き始めてから対策を練っていては後手に回ってしまう。手を打つなら早い方が良い」
「因縁の深いうちはが相手だから疑心暗鬼になっているのよ。考えてみなさいな。今更マダラが政権奪取を試みると思う?」

初めこそ千手ではなくうちはがと言っていたマダラだが、火影になった柱間を訪れた時に見たのは書類の山、山、山。
元より机に向かうよりかは戦場を駆け回る質(タチ)である自分達にとって、いくら権力が強くなるといえこれは辛い。しかもその地位に就くとしたら族長であるマダラ自身だ。
ただでさえ長の仕事があるというのに更に火影の仕事?冗談ではない。
一分一秒でも最愛の女性に寄り添っていたいマダラはあっさりと今までの思想を放り投げた。どうせ一族も漸く訪れた平穏に浸っているのだ。自分だけ戦い続けてアリスとの時間を減らすようなマネはせずとも良いだろう、と。

それが今になって政権奪取など。例えマダラがその気になったとしても一族がついてくるとは思えない。戦乱の時代を知っているからこそ、平和の味を占めた人間はそう簡単にそれを投げ出すことは出来ないはずだ。
にも拘らず一族が一致団結しているということはクーデターの類であるという考えは省いても良いだろう。

「──というのがわたくしの考えなのだけれど、いかが?」
「それは・・・まぁ、間違いないな」
「でしょう?」
「ならば何故うちはに動きがあるんだ・・・」

茶屋にて抹茶と団子を食しながら頭を抱える木ノ葉の先導者二人。数秒後、思い当たることがあったのかアリスが小さく声を漏らした。

「そういえばここ最近柱間が大名とやり取りしているらしいわね。専用の鳥が飛んでいるのを見たわ」
「あ、あぁ・・・確かに何かやっているらしいが、それがどうかしたか?」
「また政略結婚云々で揉めているのではと思ってね」

ふぅ、と溜め息を吐いて言ったアリスの言葉に扉間の顔が引き攣る。まさかそんなことで一族をと思うがマダラならありえないことではない。

「大事にならないように見張るしかないわね」
「お前がマダラに直談判しに行けばいい話だろう」
「嫌よ。あれだけ言っておいてわたくしから行くなんて」

そっぽを向いたアリスとそれを聞いてやはりかと肩を落とす扉間。
兎にも角にも大事になっては困るという事で、扉間はなるべく兄についておくと言って席を立つ。共に席を立ったアリスは少し安心したような表情をしていた。

「貴方がついているというならば安心出来るわね」
「兄者の方はな。マダラは俺を警戒しているからどうにもならん」
「それなら柱間に頼んでおいて。マダラを止められるのはあの人くらいだから」

そうして扉間と別れてから暫く、どうやら彼は柱間の手伝いをし出したらしく以前ほどお茶をする暇がなくなってしまった。とはいえアリスにもくノ一と医療忍者の育成があるため気にすることなく日常を過ごしている。
まったく、マダラが絡んでこないと驚くほど平和だ。ゆったりとした時間を感じながら日々を送るというのも中々乙なものである。




──と、のんきに構えていた自分を引っ叩きたい。
事態が急変したのはあれから三ヶ月ほど経った頃だ。その日は昼まで家で巻物や書物を読み込んで、午後にはくノ一の訓練があるため支度をして家を出た。
そして商店街を通った時だ。何やらいつもより活気付いているなと思っていたら、此方に気付いた里人が騒ぎ出してそれが周りにも伝わり、あっという間にお祭り騒ぎ。
話題の中心にいるのが自分だとは分かるが理由がわからないアリスは首を傾げて辺りを見渡した。
そして耳に入ったのが──

「御婚約おめでとうございます!」

──────────

「柱間ァ!」

珍しく声を上げて執務室に入ってきたアリスは机にドンと手をつくと余裕のない顔で柱間を睨み付けた。一方の柱間はいつもより機嫌良さそうにアリスを迎え入れる。

「どうやらその様子だともう耳に入っているようだな!」
「えぇ、えぇ。ついさっき聞いたわよ!わたくしとマダラの婚約発表をね!一体どうなっているのよ!」
「俺が今朝発表しておいた!」

グッと親指を立てた柱間の胸ぐらを掴んで思いっきり揺さぶる。脳みそがシェイクされて苦しげな声を上げる彼に扉間が止めに入った。

「あぁ扉間、いたの」
「初めからな。ついでと言ってはなんだが、マダラもいるぞ」

そう言って指差した方向をアリスは勢い良く振り返る。途端、目の前が真っ暗になって体が締め付けられた。

「アリス、随分と久しいな。この数ヶ月間何度お前に会いに行こうとしたことか・・・」
「くるし・・・離してマダラ」

痛がるアリスを気に留めず満足するまで抱きしめたマダラは漸く力を緩めて腕の中にいる彼女を見つめた。相も変わらず美しい、長年恋い焦がれてきたアリスだ。

「それで、この事態を説明してくれるわよね」
「晴れて俺とお前は夫婦(メオト)となる」
「そういうことではなくて・・・!もうっ、柱間!」

話が通じなさそうなマダラよりも今回の一件の片棒を担いだあろう柱間に説明を求める。興奮した様子で色々と話してくれたが要するに纏めるとこういう事らしい。

マダラが計画したのはアリスとの結婚式だった。だが里内でやるだけでは駄目だ。アリスのことだから上手く白紙に戻してしまうと予想がつく。これでは今までの攻防戦と何ら変わりない。
そこで、各国のお偉いさんを巻き込んだ盛大な式を計画して気が付いた時には後戻りできないようにしてしまえばいいと思い至ったらしい。
柱間は自国も含めた各国の大名にアリスとマダラが結婚する趣旨を書いた文と招待状を、マダラは一族を集めて式の計画を、それぞれが分担して事を進めてきた。

「──ということで、お前とマダラが夫婦になることは世界中の人々が知っているぞ!」
「知っているぞ、じゃないわよ!他国の人間を招くなんて何を考えているの!大名の護衛と称してスパイが入り込んでくるかもしれないじゃない!」
「心配するな。里に何かあろうものなら千手とうちはが総出でお礼参りに行くと遠回しに伝えておいた!」
「・・・へ、へぇ、そう」

爽やかな笑みを浮かべる柱間とは反対に、アリスの顔は怒りで引き攣っていた。

「式の日程は」
「二週間後、神社でだ」

マダラから返ってきた答えに更に眩暈を起こす。ありえない、全く気付かなかった。
二週間・・・間に合うか。いや無理だ。規模的にも時期的にも。何故こうなるまで放っておいてしまったんだ。扉間も途中から忙しくなったが、つまりそういう事なのだろう。
どうして言わなかったのかと扉間を睨めば気まずそうに顔を逸らされた。それに溜め息を吐いたところで後ろから抱きしめていたマダラに顎を掴まれて顔だけ振り向かされる。

「さぁアリス、これでもまだ俺から逃げるか?」
「・・・あぁもう!好きにしたら!?全部そっちで用意して直前で段取りを話してくれたらいいわよ!勝手になさい!」
「あ、おいアリス、」

眉を吊り上げて怒鳴るように言ったアリスはマダラの腕を振りほどいて執務室を出ていった。

──────────

あれから一週間後の昼下がり、アリスは森に入って大きな木の下で座り込んでいた。好きにしろ、勝手にしろと啖呵を切ってきたが、いざ式が近づいてくると本当にこれで良かったのかと考え込んでしまう。

「(やはり里のために結婚する方が・・・でももう式まで一週間だし今更なかったことには出来ないし・・・でも相手はあのマダラで、いつも一人で突っ走って被害を被るのはわたくしだし・・・今回だって勝手に進めてしまっているし・・・)」

いくら全部そちらでと言っても何かしら此方にも話が回ってくると思っていた。なのに本当にマダラ達で全てを進めているようで、自分だけ全く状況が分かっていない。

「(あぁもう。何でわたくしなのよ何で勝手に決めちゃうのよ先に一言くらい報告があってもいいじゃない。仮にも主役の一人が蚊帳の外ってこの一件を知るのが式の二週間前って何なのよ)」

どうにもならないと分かっていても何か逃げ道がないか探してしまう。この調子では結婚後も上手くいく気がしない。式に出るのも嫌になってきてしまったし、何処かに逃げ出してしまおうか。

「・・・マダラ」

底なし沼に嵌ったように気分が沈んでいく中、目の前に立ったマダラに顔を上げた。何の用だと拗ねたように睨めば「ついてこい」と腕を引っ張られる。

「離しなさい」
「いいから来い」
「離しなさいったら」
「・・・来てくれ」

いつもとは違う、少し緊張した様子のマダラにアリスは渋々腰を上げた。此方を見ないまま手を引っ張って歩いていく姿に何も言えなくなる。

人気のない道を通って着いたのは火影岩の上で。久しぶりに来たその場所から随分と賑やかになった里を見渡す。いつも通り平和な風景に少しだけ心が落ち着いた。

「アリス」

そう呼ばれて振り向くといつの間にか花束を手にしていたマダラ。頭にハテナを浮かべたアリスは首を傾げて彼を見上げた。

「今更ではあるが聞いてほしい」

そう切り出したマダラが緊張の混じった真剣な表情で口を開く。

「これまでお前を想うあまり逆にお前を傷付けてきた。今回の事もかなり悩んで落ち込んでいるのを知っている。
それでも、いつかきっと・・・俺と結ばれて良かったと、幸せだと、言わせてみせる。お前の隣に立つに相応しい男となってみせる」

だから

「俺と、結婚してくれ」

面向かって真摯に言ったマダラが花束を差し出した。店などで買ったものではない、恐らく自分で積んで束ねてきたであろうそれ。売り物のように美しくないしそもそも色や種類を詰め込み過ぎだ。
いくら花に興味がなさそうなマダラでも、と思ったが気付いた。
バラ(貴方を愛します)、カーネーション(熱烈な愛)、ワスレナグサ(真実の愛)、千日紅(変わらぬ愛を永遠に)、ブーゲンビリア(貴方しか見えない)、スターチス(変わらぬ誓い)、イカリソウ(君を離さない) 等々...
とにかく愛を語る花ばかりが詰め込まれていた。

「(さ、流石マダラ。重い・・・)」

よくぞこれだけの種類を掻き集めてきたものだと感心してしまうくらいだ。中には彼らしい少し危険な花言葉を持つ花も見受けられた。

しかしまぁ今までだって色々と被害をこうむってきたけれど、彼なりに大切にしてくれていたのも確かで。今回も勝手に進めていた割にはこうしてきちんとプロポーズもしてくれた。
事あるごとに突っ撥ねてきたがやはり一途で不器用で強引で繊細で負けず嫌いなマダラが好きなのである。

「・・・貴方の重すぎる愛を受け止められるのは、わたくしくらいだわ」

うちはの特性を前面に押し出して求め続けたマダラ。そんな彼を相手取ることが出来る女性は、きっと自分だけだから。

「これからの人生を貴方と共に・・・愛してる」

穏やかで華やかな笑みを咲かせたアリスにマダラは息を呑む。そして一瞬後には花束ごとアリスを抱き上げて歓声を上げた。

「マダラ、耳痛い・・・」
「ようやく、ようやくだ!! アリス!愛しているぞ!!」

控えめに訴えられる抗議も何のその。里中に響くような声を上げて喜ぶマダラにアリスは呆れながらも小さく笑う。
陰からその様子を見ていた柱間や扉間、ヒカク達は漸く丸く収まった二人にホッと胸を撫で下ろした。



そして婚儀の日、それはもう歴史に残るような盛大な式が挙げられた。各国から参列者が集い、木ノ葉の人間も集められるだけ集められて、大きく盛り上がる中で二人の婚儀が進められる。

一際印象に残ったのがマダラの誓詞奉唱だ。誓詞奉唱とは新郎新婦が神前へ進み出て新郎が誓いの言葉を読みあげることをいうのだが(新婦は新郎が読み終えた後に自分の名前を付け加える)、マダラは用意されていた誓詞を無視してアリスへの愛を切々と並べ、苦楽を共にして健全なる家庭を築き、子孫繁栄の道を開くと述べ上げた。
そしてこの気持ちは今生を終えて来世に至っても変わることはないと、有ろう事か神前にて神ではなくアリスに固く誓ったのだ。
お蔭でアリスはマダラが読み上げた後に名をつけることが出来ず自分で誓詞奉唱をする羽目になった。

それでも二人はこの上なく幸せな顔をしていて。

後に始まった長い宴を抜け出したマダラとアリスは、火影岩の上で静かに口付けを交わしたのだった。



終わり良ければ全て良し
(一世一代の攻防戦)
(これにて幕引きにございます)

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