高い塔が林立するどこか暗い街並み。アリスは険しい表情で比較的人通りの多い通りを歩いていた。 「雨隠れっていつも酷い雨なのに止んでいるなんて珍しいわね・・・」 被っている笠に垂らした虫の垂れ絹の隙間から空を見上げて呟く。 だが雨が止んでいるという事は感知は働かないという事だ。普通に侵入して街を闊歩しているが追手の気配はない。 「さて、自来也殿が先についているはずだから早く合流しないと」 そのためにはペインの居場所を突き止めなければならない。となると影分身で数を増やして探索と聞き込みに分かれるか。 人目のない路地に入り込んで印を組む。 「それじゃ、各自頼んだわよ」 「了解」 「急がないとね」 「行きましょう」 散、という合図でそれぞれ変化で姿を変えたアリスが町へ散っていった。 ────────── 「失礼・・・只今お時間よろしいかしら」 「え?あぁ、はい」 雨隠れの額宛に傷を入れた忍に声を掛ければ、怪訝そうな表情をしながらも応えてくれる。 「とある依頼でこの里の里長に呼ばれたのですが、恥ずかしながら雨隠れに来るのは初めてなもので迷ってしまいまして・・・どちらにいらっしゃるかご存知でしょうか」 「アンタこの里のもんじゃないのか。残念だが俺達里の人間もペイン様がどこにいらっしゃるか知らないんだ。 ──それより、さ・・・アンタ、ペイン様から依頼を受けたって言ったよな」 「え、あ、はぁ」 「それはご本人からか?」 「・・・と、言うと?」 「あの方は今まで一度も表に出ていらっしゃったことがない。用件はいつも天使様を通されるんだ。だから少し気になってな」 店の軒下に吊るされている天使を模った折り紙を見ながら忍が言う。アリスもそれを興味深そうに見て、そして忍に再び顔を向けて首を振った。 「私は手紙で依頼を受けましたのでご本人かどうかは・・・」 「そうか。・・・あぁ、そういえば噂程度でならペイン様のいらっしゃる場所を知っているぞ。一応聞いとくか?」 「噂程度・・・?いえ、お願いします」 「雨隠れって高い塔が何本も建ってるだろ?その中の一番高い塔にペイン様はいらっしゃるらしいぜ。まぁ本当かどうかなんて分からないし確かめようとする奴もいないから、あまりアテにはならないけどな」 肩を竦めて言う忍に塔を見上げるアリス。下から見上げたのではどれが一番高いのかいまいち判断がつかないが、大きな収穫だ。 礼をしてその場から離れると今しがた仕入れたばかりの情報を伝えるべく煙を撒いて消えた。 何処で何が起こってもすぐに駆け付けられるよう里の中心部で情報を集めていたオリジナルのアリスが足を止める。一拍置いて周辺に聳える塔を見渡すと小さく息を吐いた。 「一番高い塔、ね」 影分身がもたらした情報は中々有益なものだった。がしかし此処から眺めてもどれが一番高いかなんて分からない。 どうしようか迷ったところで再び頭の中に情報が入り込んで来た。 どうやら里の外側で情報を集めていた影分身達らしい。頭の中に浮かんできたいくつかの景色を照らし合わせてみる。 ──あった、一番高い塔だ。 脳内で判断した塔を探すため辺りを見渡したが同じような建物が並んでいるせいで見分けがつきにくい。自然と寄ってくる眉をそのままに走り回っていればようやく「あれかな」と思える高い塔を見つけた。 次の瞬間、爆発音のような破壊音のようなものがいくつも聞こえてくる。 何事かとそちらを見上げれば入り組んだ塔の一部のパイプが破損して派手に水を撒き散らしていた。ついでに大きな蛙と頭の数が異様に多い犬が頂上辺りに見える。 犬の方は分からないが蛙は間違いなく自来也の口寄せだろう。 場所を変えようと動き出した蛙の後を分裂した犬が追いかけて、両方が見えなくなった。 「取り敢えず追うしかないわね」 あんな大きな口寄せ動物とは戦闘になりたくはないが術者である自来也が近くにいるであろうことも事実。アリスは気が進まないといった表情で地を弾いた。
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