走り走って豪雪地帯を抜けてようやく緑が生い茂るようになってきたそこを、アリス達は青に指定された方角へ駆けていた。鉄の国の寒さと、そしてその地域を抜けた気温の変化に若干疲れが見えるアリスだが時折小さく溜め息を付くだけで足を緩めることはしない。 休憩も取らずに走り続けているとやがて遠目に“侍”の文字が施された大きな石橋が見えてくる。ついでにその橋が異様に荒れていることに気付いて三人は眉を顰めた。 「あれ・・・ダンゾウとうちはサスケじゃないか・・・? 赤髪の女もいるな」 「あぁ。それと橋の向こう側の上、うちはマダラだ」 「・・・少し様子がおかしいわね」 ダンゾウの足元に香燐が倒れていて、ダンゾウがふらつく足取りで走り出す。サスケがゆったりとした足取りでそれを追う。 何が起こっているか分からないがこれは── 「ダンゾウが、押されているのか」 「押されているどころかかなり危ない状態に見えるわ」 近付くにつれて良く見えるようになってきた二人の状態。ダンゾウの胸元に刺し傷が二つある。遠目に見ても早く治療しなければ命が危ないのが分かった。 アリスは二人に指示を出すと地を強く蹴った。 はぁ、はぁ、と荒い息が響く。 とにかく生き延びなければと拙い足取りでその場を離れようとするダンゾウの耳に後ろから追ってくるサスケの足音が聞こえた。徐々に縮まる距離にサスケが口角を上げる。 イタチの里を想う心に付け込んで一族を滅亡に追い込んだ男だ。殺すことに抵抗はない。 ようやく一人目を葬ることが出来ると、放っておいても死にそうな男に嘲笑の目を向ける──が、獲物の前に露われた金色にその顔が強張った。 「アリス・・・」 小さく呟くサスケを険しい表情のアリスが睨み付ける。その後ろにはダンゾウを支えるようにしてイズモとコテツが立っていた。 軽く振り返ってダンゾウの怪我の具合を確認して、やはりそうゆっくりしている暇はないとサスケに目を戻せばその隣にマダラが現れて眉を顰める。 「少し遅かったな。そいつはもう駄目だ」 「今すぐに手を引いていただければ間に合うと思うけれどね」 「──だそうだ。サスケ、どうする」 ゆるりと息を吐きながら言ったマダラが隣のサスケに目を向けた。迷うように視線を彷徨わせたサスケだが、一度目を閉じて深く呼吸をすると意を決したように、しかしまだ躊躇いを捨てきれない様子でアリスを見据える。その眼は写輪眼だった。 「・・・そこを退け、アリス」 「退かないわ」 「そいつの所為で俺の一族が!イタチが!死ぬことになったんだぞ!! 退け!」 「ダンゾウが木ノ葉の人間である限り見捨てることは出来ない。 それでも殺したいと言うのならばサスケ──わたくしは貴方を殺さなければならない」 スッと冷えた目がサスケを鋭く睨み付ける。純粋な殺意を孕んだそれにマダラの感心したような声が宙に消えた。 対するサスケは──一瞬手が剣の柄を掴もうと動いたがすぐに降ろされる。 「サスケ、今更何を躊躇している・・・イタチの仇を取るんだろう。女如きに惑わされているようでは果たせないぞ」 「・・・ダンゾウとの対戦でチャクラを使い過ぎた。どの道勝機はない」 その言葉にサスケは警戒する必要がないと判断したのか目を逸らせて小さく息を吐くアリス。 今はこの二人よりもダンゾウだ。少し考えると今度は小ぶりのポーチを取り出して、全員が注目する中、鏡を手に取った。 イタチの事もあってマダラが眉を顰める。 「またそれか・・・何をするつもりだ」 「怪我人がいると動きづらいから少々保護を──あぁ、何が起こるか分からないのだから動かない方が賢明ではなくって?」 体を揺らしたマダラに小さく笑みを浮かべて釘を刺すアリス。ゆっくりとした足取りでダンゾウの下まで下がる様子をマダラは苛立ちを抑えて注意深く観察する。 呼吸が少し早く動きも慎重に見えるアリスに何事かと眉を顰めるマダラ──の隣でバリバリと雷が弾けた。言わずもがなサスケだ。 だが千鳥にしても千鳥光剣にしても、目視できる真正面からではアリスに喰らわせられないぞ。どうするつもりだ。 [ back ] |