巡り会いてV | ナノ

一方その頃、里の一角にある演習場では一組の男女が修行に励んでいた。
野に吹く風が如く駆け巡り一瞬の内にいくつもの金属音が交差する。かと思えば燃え盛る業火が辺りを焼き尽くし目が眩むような雷撃が飛び交うといった、模擬実践のような鍛錬だ。
素人が近寄ろうものなら十中八九の確率で被弾は免れないだろう。

ジリリリリリ!

一帯が荒れ地になる前に鳴った時計のベルで二人は動きを止めた。

「今日はここまでね」
「あぁ」

返事をした少年は時計の近くに置いてあるタオルを少女に渡し、自分ももう一枚を手に取って汗や砂を拭う。
水分補給もして落ち着いた二人は演習場を出て一旦各自の家へ足を向けた。

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「で、お前どうすんだナルト」
「あ?何が?」

火影邸でカカシとの対戦を命じられたナルトとサクラは、中忍試験の関係で動いているテマリとシカマルと共に歩いていた。
中忍試験と聞いて懐かしむナルトにシカマルが上記の質問を投げかければ少し間の抜けた返事が返ってくる。

「何がって、中忍試験だよ。俺等と同期で中忍になってないの、お前だけだぜ」
「・・・・・・・・・えぇーー!!?
 じゃ、じゃぁ、サクラちゃんも中忍!?」
「ヘヘン、そうよっ」
「ついでと言っちゃなんだが砂隠れのカンクロウとこの人、それからサスケと、一期上のネジはもう上忍だ。あー、サスケは暗部に入ったな。アリスは言わずもがなだ」
「〜〜〜!!じゃ、我愛羅!我愛羅は!?」

ハッとして問うナルトに、シカマルがいつもの表情と雰囲気を崩さぬまま風影になったと告げる。それを聞いた彼は先程までのテンションを失い、何とも言えない顔になった。

「そっか・・・我愛羅、風影になったのか」

低く呟いたナルトは小さく俯いて拳を握りしめる。しかし次の瞬間には「スゲェ」と零して顔を上げた。

「俺も負けてらんねェってばよ!ぜってェ火影になってやる。見てろよ我愛羅!!」

火影岩を指差して宣言する彼に、サクラは微笑みテマリが小さく息を吐く。

「まったく、そういうところは変わってないな。せいぜい我愛羅に追いつけるよう頑張れよ・・・と、おい、あれアリスとサスケじゃないか?」
「えっ、どこどこ!」
「ほら、あそこだ」

目敏くナルトとサクラの後ろの方に見える彼等を見つけたテマリが指をさす。三人がそちらを向くのと同時に、アリスとサスケもこちらに気付いて歩いてきた。

「テマリじゃない。お勤めご苦労様。シカマルもね。サクラ、昨日振り。それから・・・」

三人に声をかけた後、二人の視線がナルトに集まった。すぐには分からなかったようでアリスは小さく首を傾げ、サスケは軽く眉を顰める。

「ただいまだってばよ!アリス!サスケ!」
「・・・ナルト?」
「ナルトなのか・・・?」

“だってばよ”で繋がったらしく二人が目を丸くして呟いた。我に返ったアリスは顔を綻ばせる。

「まぁ・・・まぁ!ナルトなの!久しいわね。お帰りなさい!」
「帰ってきてたんだな」
「あぁ!ついさっきな!」

ニッと笑ったナルトの周りを、アリスは観察するように一周する。そして戸惑う彼の正面に戻ってくると満足そうに一つ頷いた。

「やはり昔とは全然違うわね。こういうのをなんと言うのかしら・・・そうね、あれだわ。“格好良くなった”わね、ナルト」
「「なっ・・・!」」
「おっ、マジ!? 俺ってば かっこよくなった?」
「あまり煽てるなよ、アリス」
「そうよ。変わったのは見た目だけだから。中身はほとんど変わってないんだから」

絶句するサスケとシカマルを置いてテマリとサクラは呆れたように言うが、それでもナルトは嬉しそうに笑っていた。
そこへ立ち直った二人が口を挟んでくる。

「おいちょっと待てアリス!コイツがかっこいい?冗談だろ」
「ここまで一緒に歩いてきたけどよ、んとに中身は馬鹿なままだぜ」
「二人共ひでェ・・・」

落ち込むナルトの胸倉を不意にサスケが掴みあげる。驚いて変な声を上げた彼はしかし、目の前の酷く据わった写輪眼に顔をひきつらせた。

「え、えーと、サスケってば俺よりちょっと背ェ高いな・・・なーんて、アハハ」
「アハハじゃねェよウスラトンカチ。俺は一度も言われたことないってのに何でテメェが」
「あー、それはほら、だから・・・なっ?アリス」

困った末にアリスに振ったナルト。彼女は眉を下げて二人を離すと「そうね」と話を繋いだ。

「やはり暫く会ってなかったもの。いつも一緒にいたサスケ達よりも変わったと思うじゃない」
「それはそうだが・・・」
「でしょう?ナルトだって久々に皆と会って思うことがあったはずよ。ね?」
「そうそう!綱手のばぁちゃんの顔岩が増えてたりサクラちゃんが変わってなかったりカカシ先生も変わってなかったり!」
「ナルト・・・その感想は少々いただけないわ」

アリスの気遣いも空しく、ナルトは再び白い目を向けられた。

「やはり馬鹿は馬鹿のままだな」
「な、何ィ!?」
「二年以上経って成長しない奴なんているわけないだろ。それを見分けられないお前は馬鹿で十分だ」
「それくらい分かるし!えーと・・・ほら!アリスは結構変わった・・・ような、変わってないような?・・・あ、」

勢いで言ったナルトは改めてアリスを見てハッとした。

「アリスってば、アリスの母ちゃんに似てきたってばよ」

目を細めて言ったナルトの言葉にアリスは切なげに顔を歪めたあと嬉しそうに笑った。軽く頬を染めて髪を指に絡めてみる。

「そ、そうかしら・・・。お母様に似てきただなんて恐れ多いわ」
「んなことねぇって!アリスの方が元気な感じするけど、すっげー綺麗になったし忍には見えねェ!」
「それ、褒めているのよね・・・」

複雑そうな表情のアリス。徒桜のような儚げ美人のセシルに比べて彼女は華やかに咲き誇る薔薇を思わせた。
雰囲気は違うが、いつかの日に“姿形だけなら似てくる”と言っていたセシルの言葉はこういうことだろう。
ナルトは「褒めてる褒めてる」と笑うと次いでサスケに目を移した。

「サスケは・・・うーん、なんかそのまま大きくなったって感じだな!」
「ちょっとナルト!そのままって何よ!サスケ君は昔よりずっとカッコ良くなったわよ!」
「サクラちゃん・・・!お、俺はっ?俺だってカッコ良くなったよな?なっ?」
「しらなーい」
「サクラちゃーん・・・」
「フン、馬鹿面は変わってないな。本当に成長したのか?」
「ムキー!サスケのスカしっぷりも変わってねェってばよ!」

早速始まった喧嘩に、アリス達は「やれやれ」とでも言いたげな表情になる。それでも懐かしい光景が戻ってきて顔が綻んだ。



「──そういえば、アリス達ははたけカカシとの対戦に加わらないのか?」

争いも一段落した頃、ふと気づいたようにテマリがアリスとサスケを見る。二人は何のことだと顔を見合わせてナルトとサクラに目をやった。

「私とナルトは今からカカシ先生相手に力試しをやるのよ」
「そういやカカシ先生、俺とサクラちゃんの相手って言ってたな。アリス達はやらねェのか?」
「え、えぇ。そのような話は聞いていないけれど・・・ねぇ?サスケ」
「あぁ。それどころかこれから任務だ」
「そうなのよ。でも三人の演習も気になるわ」

物憂い気に言うアリスに、サスケは少し考えて「それなら」と口を開いた。全員の視線が集まる。

「演習を見てから行くか」
「おいおい、お前等任務だろうが」
「あぁ。だが行くのは俺とアリスだけだ」
「そうね・・・さほど急ぐものでもないし、二人の成長を見てから出ても遅くないわ」
「よし、決まりだな!さっさと演習場に行くってばよ!」
「ちょっとナルト!そんなに早く行ったってカカシ先生は来ないわよ!」

張り切るナルトをサクラが捕まえる。アリス達は呆れたような視線を彼にやりながら、ゆっくりと足を進めた。



演習場前にて──

「だぁー!カカシ先生ってば、いつまで待たせる気だよ!」

中々現れないカカシに行ったり来たりしていたナルトがとうとう声を上げた。

「まっ、昔からだけどね」
「そうね。ナルトがいない間も変わらなかったわ」
「ったく、いつまで経ってもアイツは・・・」

フェンスに寄りかかったまま三者三様の反応をする彼女達は、最後にそろって溜め息を吐いた。
ドカリとナルトがその場に腰を下ろす。

「まったく・・・ちょっとは進歩してほしいってばよ」

呆れたように言う彼にサクラが苦笑いを零したところで、彼女達が寄りかかっていたフェンスの上にボワンと煙が巻き起こった。
四人がそちらを振り向けばいつもの笑顔で現れるはたけ上忍。
悪びれなく謝って、更には「お婆さんが困ってて・・・」などと言い訳する彼にナルトとサクラがツッコむ。
その光景を見たアリスは眉を下げて小さく笑い、サスケは「またか」とでも言いたげな表情で再度息を吐いた。


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