担当:飛段 「ってなわけで俺の番が来たぜェ!」 「・・・」 「なんだよテンション低いじゃねーか」 「馬鹿の相手はしたくないわ」 飛段が宣言して早々、大きい声が煩わしいとでも言いたげに眉を顰めたアリス。 しかしそんな彼女を気に留めるでもなく飛段は屈んで笑いながらアリスの肩に腕を回す。 「んなこと言うなって!それよりよォ、ジャシン教って知ってるか?」 「ジャシンキョウ?」 面倒そうな様子から一転、興味深そうに小さく首を傾げて飛段を見上げる。 知識をつけておいて損はない。 「そ!俺の入ってる宗教!」 「・・・貴方が?」 「ああ見えて信仰が厚いですからねェ。ま、教義が教義ですから何とも言えませんが」 「“汝、隣人を殺戮せよ”だからな。好き勝手殺してるだけだ」 「んなこたぁねーって!儀式とか何とか、いろいろ決まりがあるんだぜ」 「・・・わたくし、危害を加えられない限りは殺しをしないと決めているの。だからその物騒な宗教には入れないわ」 その言葉に、少し離れたところでやり取りを見ていたメンバー達がそれぞれ小さく反応する。 「ペイン」 「あぁ。近いうちにどの程度できるか確かめておく必要があるな」 木ノ葉の忍として活躍する彼女の噂は、年を経るにつれてよく耳にするようになった。 頭は切れるし実力もある。 生まれのせいか里のためならば多少無理をする質ではあるらしいが、若くして持つその忠義は見上げたものだ。 ただその分手綱を握るのが難しい。 ついでに言えば幼くなってからの方がやりづらい。 というより、こんな性格だったとは思わなかったというのが本音だ。 「なーァー、ジャシン教入れって!一緒に殺戮を肯定する世界を作り上げようぜェ」 「しつこい」 「ぅぐはっ」 ゴン、と鈍い音を立てて飛段の頭にイスがヒットする。 その衝撃で緩んだ腕をすり抜けて、アリスは席で成り行きを見守っていたイタチの隣に腰を下ろした。 そして何かを持つように膝の上で手の平を広げると二言三言呪文を唱える。 煙が形を成すように分厚い魔法書が現れた。 「お、なんか面白そうな本だな!っつーかデケェ」 「炎系統の上級魔法とその理論が載っている魔法書よ。魔法を使うためには知識が多く必要なの」 「りろんー?よくそんな面倒くせェの読めるな」 「そう言う貴方はそもそも本すら読まないのでしょうね」 「ゲハハァ!まーな!本読んでると眠くなるしよォ。・・・ってあれ?この本開かねェぞ」 中を見ようとアリスが持っている書物を開こうとした飛段だが、表紙がページにくっついたかのように動かない。 それを聞いてトビも両手で本を開こうとするがやっぱりビクともしない。 「おいおい、これホントに本かよォ。置物とかじゃねェの?」 「インテリアとして置いといても良さそうッスねー」 「貴方達、馬鹿なの?」 訝しげな2人に冷めた目を向けて鼻で笑う。 ギャーギャーと騒ぐ彼らを横目に、本の表紙を撫でた。 「・・・何か、仕掛けがあるのか」 「流石お兄様ですわね。本のタイトルは“Hope Nix”。・・・でもこれは本当のタイトルではありませんの」 「どういう事だ?」 「Hope Nix の Hope は希望。Nix は皆無。そして Nix はゲルマン民話に出てくる水の精でもあるわ。炎系統の魔法書に相応しい言葉だと思って?」 「確かに・・・合わないわね。特に火と水なんて相性が悪すぎるわ」 小南の言葉にアリスはコクリと頷く。 「だからこのままでは開かないの」 そう言って指で“Hope Nix”の文字をなぞる。 柔らかく、文字が光って宙に浮いた。 「うわぁ!浮いてますよ!字が!どうするんスかコレ!」 「この本に相応しい言葉は───」 ヒラリヒラリ、文字が本に納まってゆく。 そして綺麗に並んだ言葉の後ろにはいつの間にか紅い鳥が羽ばたいていた。 「“Phoenix(フェニックス)”・・・火の鳥、不死鳥よ」 表紙に手を掛けると今度は簡単に開いた。 「アナグラムか。面倒くせぇ本だな」 「このような本はいくらでもあるわ。今回のはまだ良い方。秘伝や珍しい魔法書の中には噛みついてきたり稲妻が走ったりする書物もあるもの」 「なんスかその本!絶対読みたくないッスよ!」 「本とて弱者には読まれたくないのよ。と、いうことでわたくしは読書に専念するわ」 「お、おい!んなことしたら俺の出番なくなるじゃねェか!」 「知らないわよそんなこと。大体わたくし、騒がしい方の相手はしたくないの」 「良いじゃねェか。賑やかな方が楽しいしよォ!って、話聞けってェの!」 それからというもの、飛段がいくら呼びかけてもアリスが反応することはなかった。
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