「アリスちゃん!今度こそ受け取ってもらいますよ!」 「あぁもう!いらないったら!」 最近繰り返されているこのやり取り。毎食の前後と何かしらの理由で部屋から出る度に、必ずトビと遭遇して暁の装束を押し付け合っていた。 「トビの奴よくめげねぇな、うん」 「食事前なのであまり暴れないでいただきたいのですがねぇ」 座っているアリスに紙袋を渡そうと奮闘しているトビを見ながら二人がそう零す。 「トビ、そこまでにしておけ。食事だ」 「仕方ないッスねー。アリスちゃん、次こそ貰ってくださいよ!」 トビの言葉にアリスはフンとそっぽを向いて箸を手に取った。 ────────── ──────── ────── 「ごちそうさま」 食事が終えたアリスは部屋に戻ろうと立ち上がった。 がしかし、 「あ、駄目ッスよ手ぶらで帰っちゃ!これ持ってってください!」 「・・・・・」 自分なりには早く食べているつもりなのに毎回トビはそれよりも早くに食事を終えており、帰ろうとしたところで行く手を遮られる。 いい加減面倒くさくなってきた。 「ペイン、これ何とかならないの?」 「お前が受け取れば万事解決だろう」 「だからいらないったら。・・・いっそのこと装束ごと燃やしてしまおうかしら」 「リーダー逃げてください!狙われてるッスよ!」 「貴方のことに決まっているでしょう!」 バッとトビから紙袋を取り上げる。 そのことに嬉しそうな声を上げた彼だったが、直後その顔に紙袋がぶち当たって蛙が潰れたような声を上げた。 「うぅ、こっちに来て初めて会った時といい今回といい・・・手癖がなってないッスよ〜・・・」 「貴方が矢鱈とへばり付いてくるからだわ。まるで少し前に友人(ナルト)が道端で踏みつけた靴裏のガムのよう。剥がすのに苦労する姿を笑って見ていたのは記憶に新しいけれど、まさかわたくしも同じ経験をするなんて・・・」 「アハハ。靴裏のガムだって」 「言イ得テ妙ダナ」 「つーか笑って見てたのかよ」 案外心にグサッと来ることを無意識にやってしまう子なのかもしれない。一同はその友人を少しだけ不憫に思った。 「ガムでも何でもいいから取り敢えずコレ貰ってください!」 「暁に入るつもりはないから却下。サイズ調整して貴方が着たらいいのよ」 「そんな勝手なことしたらリーダーに殺されちゃいますよ!」 「あら、何も問題ないじゃない」 名案だとばかりに鼻で笑うアリスに、トビはガーンという効果音が付きそうなリアクションをとって見せた。 「なんかだんだん言葉がキツくなってないッスか!?いくらこの僕でも本当に傷付いちゃいますよ!」 「むしろその傷付いたところから腐敗して腐り果ててしまえば良いと思うの」 「言った傍から!ま、諦めませんけどね!!」 そう言って笑うトビにアリスは大きく溜め息を吐いて目の前の彼をどう退けるか頭を回した。 短い思考の末、暁メンバーが座っているテーブルを振り返る。 「デイダラ、コレをどうにかして」 「オイラかい?珍しいな、イタチの野郎じゃねぇって」 「誰でもいいのよ。ただ・・・そう、トビが昨日貴方の“芸術”を馬鹿にしていたから、ご自分の手で始末したいのではと思ってね」 「へ?僕ッスか!?」 「おいトビてめぇ・・・」 「いや僕は何も 「爆発なんてどれも同じだと言っていたわ。変わり映えしないのですって」 ちょっ!」 トビの発言を遮ってサラリと言ったその言葉に、デイダラは額に青筋を立てた。 「オイラの芸術にいちゃもんつけるたァ良い度胸だな、うん!」 詰め寄ってトビの胸ぐらを掴みあげるデイダラ。アリスはその様子に口角を上げた。 「酷いわよね・・・“爆発は単に爆発であってそれ以上でもそれ以下でもない”なんて」 「・・・・・・・・・」 「ヒイィィ!怖い!怖いッス!ってかデイダラさん後ろ見て!アリスちゃんすっごく悪い顔してるから!しんみりした声出してるけど超笑顔だから!!」 「問答無用!」 「ぎゃー!!」 そのまま二人して部屋を飛び出ていったのを見送り、アリスは再びテーブルについた。 「鬼鮫、わたくしもお茶が飲みたいわ」 「はいはい」 食後の一杯を嗜んでいるメンバーに混ざって言い合いで乾いた喉をお茶で潤す。そして数口飲んだところで小さく息を吐いた。 「大変だな」 「そう思うなら止めてちょうだい。大きな声を出し過ぎて疲れてしまったわ」 「無視でもしておけ。こちらとしては煩くてかなわん」 「食事前だと埃も舞いますしね・・・」 「と、苦情が来ているのだけれど、ペイン」 「お前が受け取らないからだろう。本来ならもう任務に出している頃なんだがな」 嫌な言葉にアリスは顔を顰めてお茶を一口飲む。あのコートに袖を通して任務だなんて、冗談ではない。
[ back ] |