「思ったより早い帰りになりそうですね、イタチさん」 昨日の朝、任務によりアジトを出て現在翌日の昼前。そしてもう少し走ればアジトに着くというところだった。 「そうだな・・・この分だと昼食はアジトに戻ってからで良さそうだ」 「えぇ。それにしても、珍しく他人でも分かるくらい急いでいますが、そんなに金蘭が心配ですか?」 「・・・そこまで急いでいるように見えるか」 「いつもの貴方と比べれば随分と」 鬼鮫の言葉で初めて自分が冷静でないことに気付く。確かに昨日アジトを出てから最低限の休息しかとってないし戦闘でも普段の俺らしくなかった。 だからといってミスなどはしていないが。 「他のメンバーに取られたくなかったなら一昨日の夜にでも手を付けておけば良かったのでは?」 「承諾のない相手を手籠めにするわけにはいかない。それに婚姻も結んでないからな」 「(旧家名家の生まれだからですねぇ。考えが固いというか何というか) それは貴方らしいお考えで」 ・・・とは言うものの、俺にだって願望がないわけではない。 好いている相手とは一緒にいたいと思うし、そういった関係になりたいとも思っている。 だがアイツが“金蘭の姫君”として忍界に名を広めているのに対し、俺は一族殺しのS級犯罪者・・・どうあっても結ばれるわけがないことは重々承知だ。 ──それでも それでも“あの時里抜けしていなければ良かった”などと思わないのは、里の平和と、何よりサスケの幸せを一番に願っているからだろうか。 いっそのことサスケとアリスが結ばれたらと思う。そして二人の婚儀を見届けたい。 尤ももしそうなったとしてもその時俺はきっとこの世にいないだろうが。 「──チさん、イタチさん」 「・・・あぁすまない、少し考え事をしていた。なんだ?」 「いえねぇ・・・あの金蘭のどこを気に入ったのかと思いまして。確かに別格だとは思いますが、普段の貴方ならどんなに美しい女性にも靡かないでしょう?」 「・・・別に他人に話すようなことではない」 正直何処が好きかなどと問われても具体的な事項はあまり出てこない。 ただ何となく里を守る姿に惹かれて、地方で彼女の名を聞くと自然と意識がいって。 そして最近では他の男の目が面白くない。 特に石の国訪問の件。好いた女が、よりにもよって政略結婚など笑える話ではない。 後の情報でそれが白紙になったと聞いた時は密かに安堵した程だ。 もっとも、そこで子息と結ばれなかったとしてもどの道叶わない恋ではあるのだが。
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