───翌日。担当:鬼鮫 「さてさて、どうしたものですかねぇ」 朝から困ったことになっている彼。 と言うのも─── ジ── ジィ─── ジィィ──── 「あの・・・」 プイッ 大きな二つの宝石に見つめられて、しかし話しかけると顔を逸らされる。 5回程それを繰り返したところで、痺れを切らした鬼鮫は溜め息を吐いた。 「取り敢えず、今日1日よろしくお願いします」 「ジィィィ───・・・フム・・・まぁいいわ。仕方ないから付き合ってあげる」 「・・・リーダー、(この子削って良いですか?)」 「鬼鮫・・・(我慢しろ。ついでにあの性格も叩き直してこい)」 「ハァ・・・(無茶言わないで下さいよ)」 ────────── 「思ったより平和ですね・・・」 「え?」 「あぁいえ、何でもありませんよ」 昨日のトビ達への対応を見てあの生意気な性格にどう対応しようかと頭を悩ませていたのだが、拍子抜けするほどに大人しかった。 どうということはない。 ただ忍というものに興味を持っていたからそれに関する本を適当に与え、ついでに時々お茶を出してやればいいのだ。 年の割に無邪気なところは少ないが誰彼無しに噛みつくような子でもない。 ようするに、節度のある対応を心がければそれなりに応えてくれるということだ。 「鬼鮫、ここ」 「はい?・・・あぁ、“きばくふだ”と読むんです」 「そう」 読めない漢字(ほとんどだが)を一回一回聞きながら読書を始めて数時間。 だんだんとスムーズに読めるようになってきたためか静かになる空間の中で、大刀の手入れをしていた鬼鮫はフと顔を上げた。 「金ら・・・いえ、アリス」 「何かしら」 「ずっと本を読んでいますが、他にやりたいことはないんですか?」 「えぇ」 本に集中しているせいか生返事に近い答えがかえってくる。 まぁここで鬼ごっこやらカクレンボやらと言われても困るため、鬼鮫は「そうですか」と話を終わらせて部屋に追加の本を取りに行った。 ────────── ──────── ────── 「───と、いうことで金蘭とは大きな問題を起こすこともなく1日を終えることが出来ましたよ」 その日の夜、アリスが部屋に戻った後にメンバーの間では報告と話し合いが行われていた。 「フム・・・静かだとは思っていたが、まさかそこまで大人しくしていたとはな」 「トビ達のことはあんなに突っぱねていたというのに・・・どういうこと」 短く息を吐いたペインに続いて、暁としての顔になった小南が眉を顰める。 「イタチ、オ前ハドウ思ウ」 「“お兄様”の意見を聞きたいな」 「・・・。俺も手探りの状態だ。そこまでは分からない」 「チッ、使えねェ」 あーだこーだと結論の出ない話し合いが続く。 「大体なァ!テメェは兄だのなんだの言われて慕われてるから良いけどよ!」 「僕達はイタチさんのせいですっごく嘗められてるんですよ!?」 「・・・んなこと言いながらテメェ等だって楽しんでんだろうが」 「それとこれとは話が別なんだよ!」 「何を話しているの」 不意に聞こえた声に全員の視線が集まる。 気配からしてたった今着いたばかり。 話が聞かれていたということはありえないため、ペインは「大したことではない」と当たり障りなく返答した。 「アリスこそどうした。もう夜も遅い。夜更かしは体に良くないぞ」 「申し訳ありません・・・。借りた本を読み終えたのでお返ししようと思って」 手に持っていた本を胸元まで持ち上げて鬼鮫を見る。 「おや、早いですねェ。理解できましたか?」 「・・・大体頭に入ったわ」 「そうですか」 多少濁して返ってきた答えだったが気にせず流す。 こういったことは無闇に突っ込まない方が穏便に済むものだ。 「アリス、明日はオイラだからな!うん!仕方なく遊んでやるから、やりたいこと決めとけよ!」 「・・・“仕方なく”はコチラの言葉だわ。仕方なく傍に置いて差し上げるから精々わたくしの邪魔にならないように大人しくしていなさい」 二人は暫く睨み合った後、「フン」と顔を逸らす。 「仲悪いッスね〜、あの二人」 「明日はどこかに避難した方が良いかな。アジトが吹き飛ぶかもしれない」 「縁起デモナイコト言ウナ」 「それではお兄様、失礼します」 「あぁ」 アリスはイタチと挨拶を交わすと部屋へと戻っていった。
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