「ふぅ・・・」 洗い場で髪と身体を洗った後、アリスは静かに湯の中に身を沈めた。アジト自体殺風景ではあるが浴場に限っては秘湯のような雰囲気が出ていて悪くない。 「さて、これからどうしようかしら・・・」 情報収集というのは難しい。一言に情報収集といっても組織の活動内容や勢力、個人情報などの項目がある。 それに気を抜いていると偽の情報を掴まされかねない。やはり一人一人と接触して時間をかけて個人情報を引き抜くのが良いだろうか。 幸い、うちはイタチ、飛段、デイダラはよく絡んでくる。 その三人の内、銀髪と金髪は獲物を狙う目をしていた気がするが殺気は感じないから殺される心配はないと思う。 うちはイタチに関しては・・・よく分からない。 心の内が読みにくく、計算の内なのか弟がいただけあって単に世話焼きなのか判断がつかないのだ。 他、干柿鬼鮫と角都は様子見のようで必要以上に係わってこないし、サソリに至ってはいつ殺されてもおかしくない位に殺気を感じる。 それと、本当に、本当にどうでもいいことだが気になることがもう一つ。 「・・・ここで使っている水はどこからどうやって引いたのかしら」 水に限らず電気やガスも。願わくば暁の日曜大工姿など見たくない。 零れた問いは湯気と共に宙に消えた。 そういえば何やら廊下辺りが騒がしい。が、それ以上のことは起きないようなので気にしないことにする。 ────────── ──────── ────── アリスを案内し終えたイタチは薄暗い廊下を歩いていた。不意に、少し離れた所に人影を認めて足が止まる。 「・・・何をしている ──マダラ」 オレンジ色の面が目を引く、いつかの日アリスに“トビ”と名乗った彼は厳しい声で己を呼ぶイタチに喉を鳴らして笑った。 「そう怖い顔をするな。アイツが起きたというから様子を見に来ただけだよ。まぁタイミングが悪かったようだが」 「そうか。なら今日はもう帰れ」 「ところで、あのドアに張ってある結界はデイダラと飛段対策か?」 繋がらない会話にイタチが眉を顰める。 「・・・あぁ」 「フッ、随分と執心のようだな。惚れるのは勝手だが余計なことはするなよ」 「・・・別にそういうつもりではない」 「どうだかな。お前の様子を見る限り間違いないと思うが・・・どうせならうちは復興にでも励んだらどうだ。アイツの血が混ざれば優秀なのが生まれるんじゃないか?それとも、俺もうちはだ・・・手伝ってやっても構わないが」 「マダラ」 面の下の顔が酷く愉しげに歪み、反対にイタチの顔は厳しくなる。薄暗い中で浮かび上がる双方の赤が睨み合って数秒。 「──ククッ、冗談だ。小娘を相手にするほど飢えてはないさ。ま、戯れ程度に相手をしても 「マダラ」」」 先程より強い口調で、咎めるように呼んだ。三つ巴から形を変えたイタチの双眸が彼を見据える。 その様子にやはり愉しそうに笑った男はアリスのいる風呂場を一瞥するとイタチに目を戻した。 「そう怒るな・・・少しからかっただけだろう。精々自分の知らないところで喰われないよう気をつけろよ」 そう言い残して、渦を巻いて消えていった。 ────────── リビングに戻って暫く、いそいそと部屋を出ていくデイダラと飛段を見たが手は打ってあるため放置だ。 遠くで騒ぐ声を聴きながら鬼鮫の淹れたお茶を飲んでいれば、程なくして男二人が返ってきた。 「おいイタチィ!あの結界張ったのテメェだろ!」 「余計なことすんな!うん!」 「覗きをしようとしたお前達に言われたくはない。そんなに見たかったら壊すなり解くなりすればいいだろう」 「俺は結界とか専門外だっつの!」 「しかも結構複雑なヤツだったしよぉ!起爆粘土使うにもアジト崩壊するから出来ねぇし!」 ギャーギャーと煩い二人に、イタチは溜め息を吐いて無視を決め込んだのだった。 ────────── ──────── ────── 「イタチ」 暫くしてリビングにひょっこり顔を出したアリス。イタチがその声に目を向ければ、バスローブにスリッパというラフな恰好の彼女が目に入る。 入浴後特有の艶を帯びたその姿に、獣の目をした馬鹿二人が駆け寄ろうとするのをさり気なく足を引っ掛けて転ばせて、彼女の下へ歩み寄り部屋に案内するから付いてこいと促した。 「──ここがお前の部屋だ。物置として使っていたが一応掃除をして必要最低限のものを運んでおいた」 「ありがとう。十分だわ」 十二畳ほどの広さにベッドとテーブルとイス。味気はないがこちらの方が変に仕組まれることもないだろうから問題ない。 「さっきも言ったがここの連中には気をつけろ」 「えぇ。貴方も含めて、油断しないようにするわ」 「・・・何か聞いておきたいことはあるか」 「明日の朝食はどうしたらいいかしら」 「食事は基本鬼鮫が作る。時間を見てリビングに来い。任務で空けているときは冷蔵庫の中にあるもので作れ」 「分かったわ。今日はもう休む・・・世話になったわね」 「いや、こちらが勝手にやったことだ。俺は廊下に出て右に行ったところの部屋にいる。何かあれば来い」 そう言ってイタチは部屋を出ていった。 アリスは溜め息を一つ零してもう一度部屋を見渡してから、足首まであるワンピース型の部屋着に着替えてベッドに身を横たえた。 「・・・疲れた」 吐き出すようにして呟いた言葉。 本当に、疲れた。暫く眠っていたというのに起きて早々戦闘。それが終わって食事かと思ったら毒を盛られていて。まぁお風呂は良かったけど、どこにいても気が抜けないというのは困る。 唯一この部屋には結界を張っておいたからそう簡単に入ってこられることはないと思うが、相手が暁ではそれも信用できない。 解かれることはなくとも破壊される恐れはある。 でも取り敢えず今日は 「寝ましょうか・・・」
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