創設期企画小説 | ナノ


「ツバキから離れろマクラァァ!!!」

小鳥が鳴く爽やかな朝はうちは邸に響き渡るマダラの怒声で始まった。
腕の中にあった、いつの間にか愛おしい妻からすり替わっていた掛布団を投げ捨てて隣の盛り上がった布団をまくり上げる。
そこには昔のマダラにそっくりなマクラと呼ばれた少年がツバキの胸に顔をうずめていた。

「うるさい父さん・・・」
「砂利の分際で貴様・・・!」

不機嫌そうに唸って母親に擦り寄る息子に怒りで戦慄いていたところで、マダラの声で目を覚ましたツバキが体を起こす。少し暗い外を見ると小さく息を吐いて二人に目を移した。

「おはよう、マダラ、マクラ・・・少し早いのではなくって・・・?」

「あぁツバキ起こして済まない。今日も愛らしいな」
「おはようございます母さん。今日も美しいですね」

「「・・・」」

同時に返した二人の間に激しい火花が散る。どうしようもないと苦笑いを零したツバキがマダラとマクラの間に入って止めていると、隣の布団がもぞもぞと動いた。
めくれた布団からまだ幼さが残る二つの顔がひょっこり現れる。

「あら、おはよう。イズミ、ナズナ」
「おはようございます・・・お母様」
「おはよう母さん・・・あの二人はまた喧嘩ですか?」

いつもより早い起床であるせいか眠そうにマダラとマクラを見る二人。
いつの間にか取っ組み合いにまで発展していた父子だが、不意にマダラが娘を見て顔を輝かせた。マクラを放り投げてイズミを抱き上げる。

「起こして済まないなイズミ。全ては愚かなるマクラのせいだ」
「はぁ!?父さんが大声上げたせいだろ!俺は何もしてない!」
「何もしてない?馬鹿言うなツバキに抱き着いていただろうが!」
「良いじゃねェか親子なんだから!」
「胸を触っていいのは俺だけだ!」

朝っぱらから何を口論している。
ツバキは呆れたように眉を下げると朝食を作るために部屋を出た。勿論イズミとナズナをそこから攫って。



「ねぇお母様」

朝食を作る手伝いをしながらイズミが声を掛ければツバキは手を止めないまま娘を振り返る。

「お兄様とお父様は仲が悪いのですか?」
「そんなことないわ。マクラはお父様が大好きだしお父様もマクラを可愛がっているわよ」
「でもいつも喧嘩してる・・・」

同じく手伝いをしていたナズナが、庭に出て体術勝負に発展しているマダラとマクラの方を見て小さく息を吐いた。
いつもの事ではあるがよく朝っぱらから動けるものだ。

「マクラはお父様によく似ているから期待しているのよ。見た目も性格もそっくりなんだから」
「いいなー・・・僕ももっと修行つけてほしいのに、いつも兄さんばっかり」
「ナズナはマダラの弟に似ているもの。可愛いから厳しく出来ないんだわ」
「じゃあ今日も母さんが修行つけてください」
「ええー、ずるい!あたくしも「イズミは駄目だ」・・・お父様」

いつの間にか戻ってきたマダラがイズミを抱き上げながら言う。後ろの方にはこの短時間でかなり絞られたであろう息も絶え絶えなマクラがいて、ツバキは小さく苦笑いを零した。

「修行などして傷を負ったらどうする」
「大丈夫!」
「大丈夫なものか。お前はお父様が守ってやるから修行しなくていい」

頑固として修行に反対する父親にイズミが頬を膨らませる。マダラとしては死の危険がある忍にはなってほしくないのであって、出来れば大名家に生まれた女児のように蝶よ花よと育て上げたいのである。しかしそんなマダラの意に反してイズミの目標は里一番のくノ一だ。

今度はマダラとイズミが言い争い──イズミが一方的だが──をしている間にマクラとナズナに手伝ってもらって、そして朝食の支度を終えたツバキが二人を止めて全員で居間に移動する。
すっかり機嫌を損ねてしまったイズミにツバキは眉を下げた。

「マダラったら心配し過ぎよ。イズミがアカデミーで優秀な成績を修めているのは知っているでしょう。ね、イズミ」
「はい。お母様のような里一番のくノ一が夢ですから」
「だがな・・・俺はイズミを心配して・・・。なぁイズミ、うちはに生まれたからといって忍にならなければならないという決まりはないんだ。他に何かやりたいことはないのか?」

二人から言われて押され気味なマダラがイズミの顔色を窺う。当の本人は少し考えた後顔を明るくさせて拳を握りしめた。

「あのね、あのね!枝間のお嫁さん!」

「「・・・。
  ・・・・・は?」」

イズミの言葉に反応した人間が二人。言わずもがなマダラとマクラだ。持っていた箸を落としてイズミを凝視する。ツバキとナズナは「おや」と少し驚いた表情を浮かべていた。

「え、枝間!?柱間のとこの餓鬼か・・・!何がどうなってそうなった!」
「この前一緒に修行していた時に『里一番の忍になったら結婚してくれ』って。だから絶対に里一番の忍になってねって返したわ。花で作った指輪を交換したのよ」
「あら、素敵じゃない。柱間の御子息ならお母様も安心だわ」
「何言ってるんだ母さん!あんな空手一家なんかに・・・!」

柱・扉・瓦・板・枝──空手の演技で割るようなものばかりだから“空手一家”らしい。拾った箸をギリギリと握りしめて唸るように言うマクラ。一方のマダラはいつの間にか食事を終えていたらしく無言で立ち上がった。人を射殺せそうな視線をマクラに向けると一言──


「キノコ狩り・・・行くか」


戦乱の時代が終わり里もすっかり安定した平和な休日、フル装備のうちは親子が物騒な雰囲気を振りまきながら千手親子が修行しているであろう演習場へと出立した。

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